半導体帝国・台湾が崩壊しかねない水不足とアメリカ台頭、隙を狙う中国
SILICON SHIELD GOING DOWN?
必要なのは、膨大な量のエネルギーだ。「今の成長軌道が続けば、台湾の電力量にTSMCの使用量が占める割合は2030年までに10%に達する見込みだ」と、蔡は言う。
一方で、同社は顧客企業のアップルなどの圧力を受け、再生可能エネルギーへの転換を迫られている。50年までのネット・ゼロ(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)達成を目標に掲げるが、台湾では再生可能エネルギーは希少。今年、各種の発電方法を組み合わせた「エネルギーミックス」に占める割合はわずか8%だ。
そのためTSMCは中央・地方レベルで、再生可能エネルギー事業を迅速化する動きの牽引役になっている。蔡に言わせれば、おかげで台湾の化石燃料依存からの脱却が進んでいるものの、懸念もある。
「プロジェクトを早期承認するよう、TSMCは当局者に強い圧力をかけている。そのせいで、計画中の風力発電所や太陽光発電所が近隣住民、および環境に悪影響を与えないかどうかを確かめるデュー・デリジェンス(適正評価)手続きが妨げられている恐れがある」
言い換えれば、TSMCの電力需要は、住民や環境への負荷を上回る速度で台湾のエネルギー拡大を推し進めるリスクを冒している。さらに悪いことに、TSMCには大量の水も欠かせない。
半導体の製造過程では、膨大な量の水が必要になる。マイクロチップ需要が急増した15~19年に、TSMCの水使用量は70%上昇。台湾の3カ所にある工業団地での合計使用量は、1日当たり15万6000トン超に達した。これは、オリンピックサイズの水泳プール60面を十分満たせるほどの水量だ。
大量の水使用と進む乾燥化
20年には、台湾北西部の新竹サイエンスパークで進める事業活動の拡大によって、同パーク全体の水使用量のうち、TSMCの占める割合が40%から85%に膨れ上がることになった。
台湾第3の都市、高雄で新たに建設が承認されたTSMCのマイクロチップ工場は、同市の水供給量の7%を消費する見込みだ。半導体産業は水資源の再生利用・再使用を進めている。だが、その取り組みは需要に追い付いていない。