半導体帝国・台湾が崩壊しかねない水不足とアメリカ台頭、隙を狙う中国
SILICON SHIELD GOING DOWN?
水使用をめぐる問題を浮き彫りにしたのが、昨年の日照りだ。特に被害が深刻だった南部の都市、台南にあるTSMCの複数の製造工場では、稼働を続けるために別の地域から水を運び込む事態になった。
水不足の際の供給確保を目的として、新竹サイエンスパークには昨年、海水の淡水化施設が誕生した。だが淡水化というプロセス自体、大量のエネルギーを消費する。極めて純度の高い水が必要なマイクロチップ製造の場合は、とりわけそうだ。
それでも、淡水化は避けられない道かもしれない。台湾国家災害防災救助科学技術センターによれば、気候変動によって、台湾では乾燥化の進行が予想されている。乾季の雨量は50年までに10%前後減少する見込みだ。
台湾水資源局によると、半導体産業の水需要と気候変動の影響で、今や南部では1日に39万トン近くの水が不足しかけている。こうした状況は経済と安全保障に重大な影響をもたらしかねない。格好の例が台湾の農業部門だ。
「台湾では従来から農業への投資が不十分だ」と、CETの農業部門専門家リーン・ライは言う。農業事情と食料政策の結果として食料の70%以上を輸入に頼っているが、これは地域内で最も高い輸入率だ。
基本的な食料も自給していないなら、中国は侵攻するまでもなく台湾を屈服させられるかもしれない。ある程度の期間、封鎖して輸入路を遮断すれば、農業投資不足の台湾は大規模な食料危機に陥る可能性がある。
エネルギーと水の使用について抜本的で迅速な変化を実現しなければ、台湾は半導体産業によって資源不足に追い込まれる。こうした変化は、中国の侵攻回避や有事の際の抵抗に不可欠なエネルギー・資源面のレジリエンス(回復力)を確保する上で、なおさら必要になる。
長期的な経済・安全保障上の損害を度外視して利益を追求し、半導体産業などを優遇する台湾はレジリエンスを失っている。その結果、半導体をめぐる自国の未来を確かなものにしようと必死な中国の脅威に立ち向かう能力が損なわれている。
中国の先端半導体アクセスを拒むアメリカの動きと、長らく半導体を特別扱いしてきた自らの姿勢のせいで、台湾は無防備状態だ。巨額をもたらしてきた「シリコンの盾」に、今や中国が食指を動かしていることはほぼ間違いない。だが自業自得のエネルギー・水不足のせいで、台湾の抵抗力はむしばまれている。
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