最新記事

台湾半導体

半導体帝国・台湾が崩壊しかねない水不足とアメリカ台頭、隙を狙う中国

SILICON SHIELD GOING DOWN?

2022年12月14日(水)17時03分
フレデリック・ケルター(ジャーナリスト)


NW_HDH_04-20221214.jpg

米インテルの半導体製造工場起工式で演説するバイデン米大統領(9月、オハイオ州)


水使用をめぐる問題を浮き彫りにしたのが、昨年の日照りだ。特に被害が深刻だった南部の都市、台南にあるTSMCの複数の製造工場では、稼働を続けるために別の地域から水を運び込む事態になった。

水不足の際の供給確保を目的として、新竹サイエンスパークには昨年、海水の淡水化施設が誕生した。だが淡水化というプロセス自体、大量のエネルギーを消費する。極めて純度の高い水が必要なマイクロチップ製造の場合は、とりわけそうだ。

それでも、淡水化は避けられない道かもしれない。台湾国家災害防災救助科学技術センターによれば、気候変動によって、台湾では乾燥化の進行が予想されている。乾季の雨量は50年までに10%前後減少する見込みだ。

台湾水資源局によると、半導体産業の水需要と気候変動の影響で、今や南部では1日に39万トン近くの水が不足しかけている。こうした状況は経済と安全保障に重大な影響をもたらしかねない。格好の例が台湾の農業部門だ。

「台湾では従来から農業への投資が不十分だ」と、CETの農業部門専門家リーン・ライは言う。農業事情と食料政策の結果として食料の70%以上を輸入に頼っているが、これは地域内で最も高い輸入率だ。

基本的な食料も自給していないなら、中国は侵攻するまでもなく台湾を屈服させられるかもしれない。ある程度の期間、封鎖して輸入路を遮断すれば、農業投資不足の台湾は大規模な食料危機に陥る可能性がある。

エネルギーと水の使用について抜本的で迅速な変化を実現しなければ、台湾は半導体産業によって資源不足に追い込まれる。こうした変化は、中国の侵攻回避や有事の際の抵抗に不可欠なエネルギー・資源面のレジリエンス(回復力)を確保する上で、なおさら必要になる。

長期的な経済・安全保障上の損害を度外視して利益を追求し、半導体産業などを優遇する台湾はレジリエンスを失っている。その結果、半導体をめぐる自国の未来を確かなものにしようと必死な中国の脅威に立ち向かう能力が損なわれている。

中国の先端半導体アクセスを拒むアメリカの動きと、長らく半導体を特別扱いしてきた自らの姿勢のせいで、台湾は無防備状態だ。巨額をもたらしてきた「シリコンの盾」に、今や中国が食指を動かしていることはほぼ間違いない。だが自業自得のエネルギー・水不足のせいで、台湾の抵抗力はむしばまれている。


From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中