パレスチナ解放はOKでイランデモ支持はNG 政治行動禁止のW杯「カタールは二枚舌」との声も
ファンから見れば、一貫性のないルール適用は「現実的な問題」だったと語るのは、フットボール・サポーターズ・オブ・ヨーロッパでエグゼクティブディレクターを務めるローナン・エバン氏。「結局のところ、FIFAが自ら主催する大会をコントロールできなくなっていることが明らかになった」
エバン氏は、イラン反体制運動のスローガンに関しては、「足許の定まらない」一貫性の欠如が見られたと指摘する。一部の試合ではファンが抗議活動への支持を表明するTシャツを着ていられたが、イランの試合でそうしたTシャツを着ていたファンはトラブルに巻き込まれた。
LGBT+など性的少数者の人権に対する支持表明についても、やはり似たような一貫性の欠如が見られるとエバン氏は言う。カタールの同性愛禁止政策に対しては、厳しい批判が浴びせられている。
レインボーフラッグは表向きには許可されているが、「実際の状況は大きく異なる」と同氏。「こうした一貫性の欠如のせいでリスクを負うのはファンだ」
「政治的、攻撃的、差別的な内容」のものを禁止
カタールW杯におけるFIFAのスタジアム観戦ルールは、「政治的、攻撃的、差別的な内容」の横断幕、旗、チラシ、服装その他の手回り品を禁止している。
FIFA広報担当者は、FIFAは「許可されたものをスタジアムで掲出できなかった事例をいくつか確認」しているとして、ルールを完全に履行するようカタールと密接に協力していくと語った。
イラン系米国人のサイード・カマリニアさんは、「女性、生命、自由」をうたったTシャツを着て6つの試合に行ったが、イランの2試合ではセキュリティーチェックを通過する際に隠したと語る。米国戦では取り締まりを恐れて着用を断念したという。
対照的に、パレスチナ支持を表明するシンボルはあちこちで見られる。パレスチナ人ファンのサイード・カリルさんは、「カタールの人々や、ここにいる全員に歓迎されていると感じた。皆が私たちに『パレスチナ、パレスチナ』と声を掛けてくれる」と語った。
アラブ諸国の対イスラエル関係正常化に強く反対するグループ「正常化に反対するカタールの若者たち」のカタール人メンバー、マリヤム・アルハジリさんは、パレスチナへの共感は「パレスチナが引き続きアラブの主要な課題であること」を示していると語った。
アラブ首長国連邦(UAE)や、ベスト16に進出して多くのアラブ人ファンから喝采を浴びたモロッコなどのアラブ諸国は、2020年にイスラエルとの関係を正常化した。
ジョージタウン大学カタール校のメーラン・カムラバ教授(政治学)は、パレスチナ支持の表明を認めることはカタールにとって「ヘッジ戦略」の一環だと説明する。
カムラバ教授は、「(カタールは)住民が怒りを発散し、象徴的な形でパレスチナ支持を示すことを認めてきた一方で、完全な正常化ではないにせよ、(対イスラエル)関係改善に向けた地ならしを進めつつある」との見解を示した。
(Andrew Mills記者、翻訳:エァクレーレン)
