習近平、抗議拡大受け妥協か強行突破か 岐路に立つ中国「ゼロコロナ」
もっとも専門家は、これらの政治手続きを経て習氏の権力は一層高まった半面、その権力基盤は今回の抗議行動で露わになったようにもろい側面も抱えている、と分析する。
シンガポール国立大学東アジア研究所の中国専門家、ランス・ゴア氏は「自分の耳に心地よいことを言ってくれる人々にだけに取り巻かれることで、習氏は何でも肯定される状態に陥り、大半の国民がいかにゼロコロナ政策に苦しんでいるか実態をつかめないか、彼らの窮状を過小評価してしまった恐れがある」と分析した。
習氏の苦境
足元の抗議行動の拡大により、習氏の苦境はさらに深まった。その苦境とは、つまり当初は単に指導者としてのプライドのために導入されたが、次第に政治的な負債になりつつあるゼロコロナ政策をどうやってうまく巻き戻すかということだ。
もし習氏が一般市民の圧力に屈してゼロコロナ政策を撤回すれば、弱腰とみなされ、市民は政策変更を望むたびに積極的に抗議行動をするようになるだろう。
中国の人権活動家テン・ビャオ氏は、習氏が抗議行動を容認すれば、これまでのゼロコロナ政策が完全に間違いで自身にその責任があるという話になり、面目を失ってしまうと話す。
専門家の見立てでは、習氏の性格上、屈服はあり得ない。
習氏は9月にウズベキスタンで開催された上海協力機構首脳会議で、反政府を意図する抗議行動を阻止する必要性を強調。非公開の演説では、旧ソ連共産党が権力を失ったのは試練に立ち向かえるだけの「人物」がいなかったからだと嘆いて見せた。
また政府として十分な準備が整わないうちに習氏がゼロコロナ政策を転換すれば、感染者や死者が急拡大し、医療システムがひっ迫して収拾困難な状況になりかねない。
逆にコロナに対する勝利宣言をして政策を変更する方法がみつかるまで、習氏がゼロコロナ政策を強行すると、市民の反発がさらに強まり、経済成長も失速する恐れがある。
習氏は10月にゼロコロナ政策を微修正して経済や市民生活に幾分やさしい内容になることを狙って「20項目の措置」を公表したものの、各種制限を講じる必要を正式に否定したわけではない。そのため多くの地方政府当局の対応は依然として過剰な方向に振れて、この20項目で規定されたよりも厳しいロックダウンや隔離のルールを実行している。
ジェームズタウン財団のウィリー・ラム上席研究員は、現時点で中国の新型コロナ対策を正確に読み解く手掛かりはなくなっているように思えると指摘。その上で「習氏とその勢力はどこからどう見ても強力に見えるが、同時にこの新指導部から(打ち出される適切な)対応というものが全く存在しない」といぶかしんだ。
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