「加盟国に決断求める」シンガポール外相 ミャンマー問題で手詰まりのASEAN
特別外相会議終了後、インドネシアのルトノ・マルスディ外相は記者会見で「ミャンマーの状況は進展がないどころか悪化している」との認識を示し、ASEANとして何ら有効は打開策を見いだせないことへの焦燥感を表した。
ただ特別外相会議ではミャンマー軍政に対して「5項目の合意」の完全履行に対して期限を設ける必要性を確認した。とはいえ、この期限に関しては外相会議は明確にしておらず、首脳会議に決定を委ねる形となった。
議長国カンボジアの融和姿勢がネックに
これまで何度も指摘されたことだが、ASEAN内部ではミャンマー軍政の後ろ盾となっている中国と親しいカンボジアやラオス、ベトナムなどがミャンマー軍政に融和的姿勢を示し、ASEANが一致してミャンマーへの強硬姿勢をとれないネックとなっている。
特に今年のASEAN議長国であるカンボジアのフンセン首相やASEAN特使に任命されたプラク・ソコン外相は複数回に渡ってミャンマーを訪問し、ミン・アウン・フライン国軍司令官など軍政幹部と直接会談して「5項目の合意」の履行を迫ったが、軍政の頑なな拒絶の姿勢を崩すことはできなかった。
それにも関わらすカンボジアは5月に自国で開催したASEAN国防相会議にミャンマー軍政代表を招待し、軍政代表が「重要な会議に招待されたことに感謝する」などと述べる事態になった。
こうした議長国カンボジアの「全加盟国参加での対話を通じた打開策を探る」との姿勢に基づく「スタンドプレー」に対してマレーシアやシンガポール、インドネシアなどは「煮え湯」を飲まされてきた。
今回シンガポール外相が「重大な決断の時」として「今後2週間に何が起きるかその動きに注視する」と述べた背景には、現在各国外務当局を中心した準備交渉の成果が11月8日から予定されるASEAN首脳会議及び関連会議で主要議題となることが見込まれている事情がある。
その首脳会議でシンガポールやマレーシア、インドネシアなどが、ASEANのミャンマー問題に対する大きな転換を期待していることをシンガポール外相が代弁したとの見方が有力視されており、ASEAN首脳会議での議論が注目されている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など