「ベルトでお尻を叩かれた」「大学進学は罪」──宗教2世1131人に聞く宗教的虐待の実態
国会でのヒアリングで被害体験を話す宗教団体「エホバの証人」3世の夏野ななさん(仮名、左端)と、調査報告を行うチキラボメンバーら(写真提供:社会調査支援機構チキラボ)
<宗教的虐待とは何か。宗教2世に対する虐待行為に対処するには、教育ネグレクトや経済的虐待を含め、幅広い議論が必要になると「社会調査支援機構チキラボ」の代表・荻上チキ氏は言う。同団体が当事者1131名を対象に行った調査から、集団的な虐待推奨の実態が浮かび上がった>
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を中心に、今、さまざまな「宗教2世」当事者が声を上げている。いや、もともとあげられていた声に、世の中が耳を傾け始めている。だが、政府はどこまで、「聞く力」を持っているのだろうか。
11月18日、政府は消費者契約法の改正案や、被害者救済法などの概要を示した。それらを見て受けた印象は、「できる限り最小の一歩しか、進めるつもりがないのか」「可能な限り骨抜きにするのだろうか」というものだった。もしかして政府は、この期に及んで、問題の根深さを直視できていないのではないか。
例えば「寄付上限」の線引きが、「居住する建物を売却したり借金をするよう求める行為」である点は問題だ。これでは、「口座満額寄付」は「過度な献金ではない」などと解釈されうる懸念がある。
また、マインドコントロールの問題については、概要にすら盛り込まれてすらいない。「今国会には間に合わない」という言い分が行われるのであれば、理解はできなくはない。その場合は最低限、「今国会ではこれを、次の国会ではこれをやります」というロードマップを示すことが必要となるはずだ。
初手段階で、政府の消極性が見えてしまう状況に絶望しそうではある。だが、議論が不十分な点は他にも多くある。
例えば、宗教的虐待について、通達のみで済ませるのではなく、児童虐待防止法に明記できないのか。旧統一教会以外にも、たとえば継続的・集団的に虐待推奨を行なってきたような宗教団体など、問題のある宗教法人はいくつかあるが、そうした団体の2世らも救済の視野に入っているのか、などだ。
筆者が代表を務める社団法人「社会調査支援機構チキラボ」では2022年9月、宗教2世の実態調査を行った。有効回答数は、1,131名。調査内容は報告書にまとめ、ウェブ上で無償で公開している。また、11月25日には、調査のまとめも掲載された書籍『宗教2世』(太田出版)が発売となる。
調査結果については記者会見も行い、国会のヒアリングでも説明した。現在は、各党議員に、調査でわかった知見を伝える活動を行っている。
この実態調査から分かったことは、いまメディア等で声を上げている宗教2世の体験は決して特殊なケースでもなければ、個別家庭の問題にとどまるものでもなく、多くの2世が共有しているものであるということだ。また、そこで求められている対策(虐待対策や自立支援他)は、多くの当事者が求めているものと重なっていることが確認できた。
被害者は具体的に何を求めているのか。まずはそれを可視化するため、この記事では、ラボの調査のなかで見えてきたもののうち、まだあまり論点化されていないものについて整理していこうと思う。