アメリカも警戒する、イスラエル人技術者への中国からのスカウトメールとは?
BEIJING’S BIG BET
だが将来にわたっての勢力図を考えれば、インフラよりハイテク分野のほうが重要だ。今年5月までの20年間に両国が合意した技術投資案件507件のうち、492件がIT(情報技術)、通信、クリーン・農業技術、ロボット工学などの分野だった。
近年はイスラエルがアメリカの懸念を忖度して全体的に件数を減らしているものの、21年から22年5月までの44件中43件がハイテクと、その比率は依然として高いままだ。
この比率の高さはイギリスなど他国を上回る。イギリスでもハイテク分野では中国からの投資が年々増加しており、報道機関などの推定によると過去10年間で全体の約40%に達している(公式の統計はない)。
そこでイギリス政府は情報インフラやAI、ロボット、そしてエネルギーと運輸部門など17の「センシティブな分野」の買収事案について、国家安全保障を理由とする精査・介入を可能にした。
イスラエルにも、買収・資本提携事案を精査する仕組みがある。アメリカ政府の圧力で20年にできたもので、財務省が管轄している。だが、ハイテク部門は対象外だ。なぜか。国家安全保障研究所の中国専門家ガリア・ラビに言わせると、「イスラエルのハイテク産業は民間部門のため、政府は介入を望んでいない」からだ。
「最近のアメリカ人は、市場が自由になりすぎたと考え始めたようだが、それでもアメリカのハイテク企業は依然として中国とビジネスをしている。(イスラエルの企業に)中国と付き合うなとは言いにくい」とラビは言う。
防衛技術の「移転」を恐れる
アメリカがとりわけ懸念するのは、中国がイスラエルの軍事的ノウハウに触れることだ。過去に実例がある。1990年代、中国はイスラエルの無人機「ハーピー」を購入し、03年に改修を求めた。このときイスラエル側は応じなかった。アメリカからの圧力があったからだ。
中国が防衛関連の技術を盗もうとしており、「時には成功を収めている」ことは、イスラエルの安全保障担当者も(非公式にだが)認めている。
イスラエル国防省で安全保障局長を務めたニル・ベン・モシェは今年2月、「中国の情報機関にとってイスラエルとアメリカの複雑な関係の仕組みが相当な関心事となっている」可能性があると、イスラエルの安全保障専門サイトiHLSに遠回しな表現で書いている。
「その対象にはイスラエルの兵器システムのうち、アメリカと協力して開発した、または米国製のものが含まれる」