アメリカも警戒する、イスラエル人技術者への中国からのスカウトメールとは?

BEIJING’S BIG BET

2022年10月28日(金)12時56分
ディディ・キルステン・タトロブ(ドイツ外交政策評議会元研究員)

220830p18_CNAchart.jpg

iHLSの編集長アリエ・エゴジは1月、中国の覆面会社が「表面的には合法だが実はイスラエルの防衛技術を中国に移転する目的の企業を設立する目的で」イスラエル企業との提携を模索しているとの懸念をアメリカが伝えてきたと述べている。

その懸念を裏付けるようなスキャンダルが昨年発覚している。検察によると、無人機業界でパイオニア的存在のエフライム・メナシェが中国企業にハーピーのような無人自爆攻撃機(空中を旋回して待機し、標的が特定されたら突進して自爆する)を違法に売却したという。

この件は、中国国内では党公認のコンテンツを流す上海春秋発展戦略研究院の系列サイトで、嘲笑的な調子で否定された。ただし自爆ドローンのような目を引く技術ばかりがアメリカの懸念事項というわけではない。もっと地味な技術でも、ひとたび中国の手に渡れば経済活動や技術分野で世界のパワーバランスを変化させる恐れがある。

「イスラエルの高度な能力、特に先端技術、サイバー、医薬品、農業に関する能力は、中国の勢力拡大計画のほぼ全ての側面に貢献する可能性を持つ」とベン・モシェは書いた。「だから中国の諜報活動のパターンを知り、イスラエル国内の対象に近づかせないことが不可欠だ」

イスラエルの新興技術が合法的な商取引や共同研究によって獲得される場合もある。合法的な手段による技術移転はアメリカでも起きているが、何といってもイスラエルには高度に発達した情報セキュリティー関連の技術がある。

例えば、どんなスマートフォンにも侵入できるというスパイウエア「ペガサス」は、イスラエルに拠点を置くNSOグループがライセンスを供与している。

中国の統制経済では、商取引も政治的な目的で行われるのが常だ。アメリカが中国への半導体輸出などで規制を強化したため、中国政府は代わりにイスラエルから入手することを考えている。

ちなみに、広東省広州市の海国図智研究院が今年4月に発表した論文には、「イスラエルの多国籍・国内半導体企業は新しい世界的な半導体研究開発拠点として、中国の半導体産業にとって戦略的意義がある」と記されている。

一方でイスラエルは、インテルをはじめとする多国籍企業の現地法人を通じて中国に何十億ドル相当の半導体を輸出しており、これを通じてアメリカの技術が中国側に渡っている可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も

ビジネス

EU、炭素国境調整措置を強化へ 草案を正式発表

ワールド

インドネシア中銀、3会合連続金利据え置き ルピア支

ワールド

戦略的互恵関係を推進、国会発言は粘り強く説明=日中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中