アメリカも警戒する、イスラエル人技術者への中国からのスカウトメールとは?
BEIJING’S BIG BET
「イスラエルからすれば、パラレルワールドが存在するようなもの」だと言うのは、国家安全保障研究所(イスラエル)の中国専門家で元准将のアサフ・オリオン。「アメリカとは全面的かつ戦略的関係を結んでいる。だがアメリカは、わが国の貿易相手国の1位ではない」
1位は単一市場としてのEU(加盟国は27)。アメリカは今のところ2位だが、中国が急速に追い上げている。イスラエルの今年上半期の対米貿易額は107億1000万ドル、中国は少し下回る106億8000万ドルだった。今年中には中国が逆転するかもしれない。
中国とイスラエルの関係は、汚職疑惑の尽きなかったベンヤミン・ネタニヤフ元首相の在任中に深まった。ネタニヤフは両国関係を「理想的な結婚」と呼び、17年には「包括的イノベーション・パートナーシップ」という協定を結んでいる。
この協定を中国側で推進したのは劉延東(リウ・イエントン)という女性政治家で、党の中央統一戦線工作部(中央統戦部)のトップに立ったこともある大物だ。中央統戦部は党中央委員会直属の工作機関で、国内外で党の影響力を強めることを任務とする。
対してイスラエル側の責任者だったのはツァヒ・アネグビ。ネタニヤフの腹心で、極右思想と情報機関とのつながりで知られる元閣僚だ。現在アネグビはイスラエル中国友好議員連盟の会長として中国政府高官と接触する立場にある。「2国間関係、パレスチナ問題、その他の国際的また地域的な問題点」について協議する翟隽(チャイ・チュン)中東問題特使などだ。
イスラエルが経済とハイテクの分野で対中関係を深めていた頃、アメリカは逆の方向へ動いていた。17年にはトランプ政権が、中国経済の台頭を脅威と見なす国家安全保障戦略を打ち出した。発表された内容は、オバマ政権下で始まった対中政策の見直しを踏襲するものだった。
南カリフォルニア大学米中研究所のクレイトン・デュビ所長によると、オバマ政権は中国軍所属のハッカーによるウェスティングハウス・エレクトリックやソーラーワールドといった企業へのサイバー攻撃に苦言を呈し、さらに「軍事力による威嚇を控えるよう、中国に警告した」と言う。
ここで言う「威嚇」には、南シナ海全域の領有権主張や日本領海への侵入、そして8月上旬に台湾周辺で行ったような大規模な実弾演習なども含まれる。
中国発の投資が集中する分野
中国とイスラエルの協力関係で、特に目に見えて進展があったのはインフラの分野だ。中国の国有企業が地中海に面したアシュドットとハイファに念願の港湾施設を整備し、北部ベト・シェアンの水力発電所を建設し、交通渋滞が激しい主要都市テルアビブでライトレール方式の鉄道を建設している。