比ラジオ・コメンテーター殺害の容疑者が出頭「塀の中の黒幕から殺害命令」
エストリアル容疑者によると、マバサ氏殺害について2つのチームが編成され、最も殺害可能なポジションにいた2人組が発砲することになっており「たまたま自分が最もマバサ氏の近くにいた」と述べた。
そのうえで「そこで発砲してマバサ氏を殺害しなければ私自身が殺されると脅迫を受けていたので発砲した」と事件当時の状況を供述した。
さらに殺害チームには55万ペソ(約140万円)の「報酬」が支払われたことも明らかにし、マバサ氏の遺族に対して「どうか私を赦してほしい。私は貧しく仕事もなくお金が欲しかった。殺したくはなかったのだがそうするよう強要されただけなのだから」と弁解と謝罪の気持ちを明らかにした。
マバサ氏遺族は法の正義実現を切望
こうした捜査の進展についてマバサ氏の遺族は18日に声明を発表し、警察の捜査への感謝とともにマバサ氏の殺害がフィリピンにおけるジャーナリストやメディア関係者の長年の"暗殺"リストの単なる一人とならないことを切望すると述べた。
さらに「今後の捜査で事件の背後にいる首謀者の身元を明らかにし、逮捕・訴追に繋がることを望む」として法に基づく正義が実現されることへの思いを明らかにした。
フィリピン議会からも「殺害事件の首謀者を政府の施設である刑務所で保護し政府の税金を費やしていることは実にばかげているのではないか」との声も上がっている。
さらに刑務所内から外部に「犯行依頼」ができるという事実にも問題があるとの指摘もでているほか、スペイン植民地時代にできた刑事司法は「現代には時代遅れ」として刑法を見直すべきとの意見も議員の間から出るなど、マバサ氏殺害事件は各方面に影響を与えてその余波は大きく広がっている。
今回マバサ氏殺害の実行犯を逮捕したことで今後の捜査は一気に進むものとみられているが、実行犯チームのメンバー全員を逮捕しても「マバサ氏の殺害を依頼した」とされる刑務所内で服役している「首謀者」特定にはなお時間がかかるとの見方が強い。
フィリピンでは刑務所の受刑者による麻薬や犯罪の「闇のシンジケート」が存在して、刑務所外にいる協力者や金銭で雇った人物に「犯罪依頼」するケースがあるものの、その首謀者やシンジケートが摘発され処分された例はほとんどないのが実状という。
それだけに今回のマバサ氏殺害事件に関してフィリピン警察の捜査がどこまで首謀者に迫れるか、国民は注目している。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など