最新記事

環境

自然環境に出ると自己分解する「タイマー付き」プラスチック

This Plastic Self-Destructs Within Two Years

2022年10月19日(水)16時35分
パンドラ・ディーワン

シカゴマラソンでポリマテリア社が提供したバッグ。「すぐに分解します」という意味のメッセージが書いてある POLYMATERIA

<イギリスのベンチャー企業が、新しい発想の生分解プラスチックを開発した。回収されずに環境に流出したときは、2年以内に自己分解させる時限爆弾のような技術だ>

英国ロンドンに本社を置くスタートアップ、ポリマテリアは、環境中に流出したプラスチックを自己分解させるソリューションを開発した。

同社の独自技術をプラスチック樹脂の製造過程に組み込むことで、プラスチックのリサイクルを可能にし、自然環境に入り込んだ場合には次善策として生分解させるというものだ。

国際連合の試算によると、世界では毎年4億トンのプラスチック廃棄物が発生している。そのうち32%が回収されずに自然環境に入り込み、年に数百万トンが海に流れ込んでいる。

これらのプラスチックが環境中で分解される過程で放出される有害物質とマイクロプラスチックは、環境を汚染し、動物や人の体に取り込まれる。

この問題を回避するため、堆肥化できる生分解プラスチックが使われることもある。しかしこれは通常耐久性が低く、リサイクルができない。ポリマテリアの広報担当者リーパ・オルサウスカイトは本誌の取材に対し、「リサイクル可能なプラスチックには安定性が必要だ。従来の生分解プラスチックはすぐに分解してしまい役に立たなくなるが、そうではなく安定して形を留める必要がある」と説明する。

自己分解の秘密

また、従来の生分解プラスチックはほかのプラスチックとは性質が異なるため、別々に回収する必要があり、新たな処理インフラが必要になる。またほとんどの場合、完全に分解するためにはかなりのエネルギーを消費する。「プラスチックを堆肥化するには、非常に高い温度が必要だ」とオルサウスカイトは話す。

ポリマテリアの生分解性製品は、このようなエネルギーを必要とせず、ほかのリサイクル可能なプラスチックと同じに扱うことができる。「当社のバイオトランスフォーメーション技術でつくられた製品は、時間制御されたリサイクルが可能だ。たとえ自然環境に入り込んでも、2年以内に生分解され、有害物質やマイクロプラスチックが残らない」とオルサウスカイトは説明する。

この技術を用いることで、世界のプラスチック汚染を助長することなく、できるだけ長くプラスチックを流通させたいというのがポリマテリアの願いだ。

「プラスチックの分解を促進するには、太陽、空気、水が必要だ」とオルサウスカイトは話す。同社のバイオトランスフォーメーション技術を用いたプラスチックは、食器棚や食器洗い機などで使われるうちはこの条件がそろわないので、プラスチックはプラスチックのままだ。しかし、自然環境に入り込んで太陽、空気、水がそろうと分解が始まり、微生物が食べられるワックス状の汚泥(スラッジ)に変化する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領のクリミア固執発言、和平交渉の障害

ワールド

米中関税の相互的な引き下げ必要、進展に緊張緩和不可

ビジネス

米物価、全地区で上昇 経済活動は横ばい=地区連銀報

ビジネス

ユーロ圏インフレ、短期的には低下加速を予測=オラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    ウクライナ停戦交渉で欧州諸国が「譲れぬ一線」をア…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中