最新記事

日本社会

ひろゆき氏の炎上「辺野古ツイート」に見る冷笑主義にも称賛できる点はある

2022年10月13日(木)19時30分
西谷 格(ライター)

そして、「座り込みは事実ではない」とのひろゆき氏の主張は、沖縄問題に関心のない人々により強く訴求する。過去の歴史や文脈をすっ飛ばしてツイートで示された断片のみを捉えれば、「座り込みって言っているけど、嘘じゃねえか」と見えてしまうのだ。

私自身も、沖縄問題についてはごく表層的なことしか知らない。それでも、最低限度の知識があれば、たとえ主張や手段に賛同しなくても、抗議運動をしている人々に対してもう少し丁寧かつ穏当な態度で接しただろう。少なくとも、冷笑を目的としたような態度は取らないし、取れない。

冷笑と俯瞰を繰り返す態度は、かつてネット黎明期からしばらくの間、とてもクールで洗練された作法に見え、知的であるとすら映っていた。でも、実はそうではないことに、そろそろ気づかなくてはいけない。そんな態度は、本当はとても格好悪い。

なーに本気になってんの、ネタにマジレスカコワルイ、ははは冗談ですよ冗談、結局どっちもどっちだよね、それって○○すれば良いだけじゃん。――ネット世論のこうした態度に、私はとてもウンザリしている。

結局、ひろゆき氏が悪いというより、本土に住む者たちが無知で無関心過ぎるのだろう。ひろゆき氏は、沖縄に対する本土の無関心を代弁していたのだ。ただ、この問題をどう解決したら良いのか、私には分からない。「関心を持て!」と言われて、持てるようなものではないからだ。

埼玉で子育てに奔走しているシングルマザー、東京で自転車を漕いでいるフードデリバリーの配達員、神奈川のブラック企業で働いている新人サラリーマン。そうした人々に対して「沖縄の基地問題が抱える誤謬性について再考を」と熱弁を振るったところで、無理というものだ。そんな余裕はないわけで、沖縄の米軍基地なんて自分には関係ない話、と言い聞かせて終わってしまうだろう。自分たちが平和な日々を過ごす代償を、どこか遠くの人たちが背負っていることには目をつぶりながら。

ネット世論の嫌なところはもう一つ、すべての言説を「敵か味方か」の二分法に飲み込んでしまうところだ。この記事も、ある層の人々からは「こいつは敵だ」「こいつは味方だ」という二色しかない世界のなかに閉じ込められるに違いない。コンピューターが0と1の二進法で成り立っているからなのか、ネット空間は二分法に依らない淡いグラデーションの世界を許してくれないのである。

今回、ひろゆき氏に功績があったとすれば、私を含む多くの人々に、何はともあれ沖縄問題について注意を向けさせたことだろう。これはきっと、ネット世論を喜ばせる冷笑が得意な彼にしかできなかったことであり、その点は称賛に値する。良かったら、もう一度辺野古に行ってもらえたら格好良いのだが。

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中