最新記事

日本社会

ひろゆき氏の炎上「辺野古ツイート」に見る冷笑主義にも称賛できる点はある

2022年10月13日(木)19時30分
西谷 格(ライター)

「日本・沖縄」が「中国・香港」に重なる

世の中には、額面通りに使われていない言葉など、いくらでもある。「無期懲役」と言われても実際は30年ほどで外に出られるし、「江戸前寿司」の魚介類の産地はモーリタニアやインド洋だ。「メロンパン」にメロンは入っておらず、「断食ダイエット」でも酵素ドリンクは飲んでいたりする。

そんな言葉の揺らぎを考えれば、1日3回ピンポイントの着座行為も、「座り込み」と呼んで差し支えない。実際、機動隊の手を煩わせる形で抗議行動は成立しているのだから。

毎日繰り返されている半ば儀式化したような「座り込み」には、意味がないという人もいるだろう。実際、あまり意味はないのかもしれない。辺野古移設に向けた工事は日々着々と進んでいる。

沖縄の問題を考えるとき、私はどうしても香港のことが頭に浮かぶ。「中国・香港」という関係が、「日本・沖縄」と重なって見えるのだ。もちろん、民主主義国家の日本は中国ほど強引ではないけれど、「中央・辺境(と敢えて呼ばせて欲しい)」という構図で捉える時、両者の立ち位置は実に良く似ている。

2019年に行われた県民投票では、沖縄県民の約7割が辺野古埋め立てに反対している。「中央の論理」によって辺境の民意はいつも必ず踏み潰される。中央の論理とは、言い換えれば東京の都合であり、本土の理屈である。

2019年に行われた香港でのデモ活動は、前半戦は香港政府を動かしたものの、後半戦では目立った成果はなく、社会は大いに疲弊した。失敗に終わったとも評価する人もいる。一方では、抗議の意志を示すこと自体を「運動の意味」のなかに含むことができるなら、それでも「意味があった(ある)」と言うこともできる。

ひろゆき氏=マジョリティの態度

ひろゆき氏はネット世論の権化のような人物であり、ネット世論が服を着て歩いたらこうなるだろうという発言を日々繰り返している(それが彼の魅力でもある)。あらゆる事象について冷笑し、茶化し、皮肉り、揶揄する。そうして揚げ足を取って、一歩引いたところで俯瞰する。これはツイッターに代表されるネット世論に通底する態度であり、ひろゆき氏がこの世界と接する時のスタンスでもある。

そう考えると、ひろゆき氏の今般の言動は、中央つまり本土に住む者たちの辺境に対する無知と無関心を露呈するような出来事だったのだろう。沖縄の背負ってきた歴史を考慮せず、中央によって翻弄され続けた宿命を解さなければ、自然とああいう態度になるのだろう。抗議運動の場での笑顔とピースをしたり、看板を見て「汚い字」と評し、「沖縄の人って文法通りにしゃべれない」と発言したりした態度のことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 8
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 9
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中