プーチン動員令、国内パニックだけじゃない深刻な影響
A Bad Hand for Putin
ウクライナでの作戦に投じる兵力を30万人増やすには、既に現地で戦っている兵士の軍務契約を延長し、帰還させずに引き続き戦わせる手もある。
だが士気の面からそれは難しいと専門家は言う。戦地にいる期間が長引けば、戦意喪失は避けられないからだ。
「問題はロシア軍の指揮がまずい上、兵士がまともな訓練を受けていないことだ。基本的な訓練すら不十分で、長く軍隊にいた兵士の能力も低い」と在欧米陸軍の元トップ、マーク・ハートリングはプーチンの発表後にツイートした。
「戦況が悪化した前線に士気が低い新兵を無理やり送り込めば、もっと悲惨な状況になるのは目に見えている」
もっとも、予備役はウクライナには派遣されず、ウクライナに向かう正規軍の兵士の穴埋めに使われる可能性もあると、ロシア軍の動向に詳しい欧州の高官はみる。
予備役動員が「ウクライナの戦況に与える影響は不透明だが、戦争が計画どおりに進んでいないとプーチンが認めていることを示すサインとしては、これまでで最も明白な動きだ」と、その高官は言う。
プーチンは国連総会出席のため各国首脳がニューヨークを訪れている最中に動員令を発表した。折しもウクライナ戦争と世界の食料・エネルギー市場に与えたその深刻な影響が話し合われようとしているときに、である。
軍事侵攻のせいで西側に排除されたプーチンは国連総会には欠席したが、前の週にウズベキスタンで行われた上海協力機構の首脳会議には乗り込んだ。そして、そこで予想外の冷たい仕打ちに遭った。
中国の習近平(シー・チンピン)国家主席には距離を置かれ、インドのナレンドラ・モディ首相には公共の場で批判された。プーチンは西側の制裁から経済を守るためアジア向けのエネルギー輸出を拡大しようとしているが、肝心の中国とインドに冷や水を浴びせられた格好だ。
プーチンのテレビ演説の前日、ロシア下院は兵士の脱走や徴兵忌避などに対する処罰を厳格化する法案を採択した。罰則が適用される状況も戦闘中に加え、動員令の発令時や戒厳令下にまで拡大された。
ウクライナで展開しているのは戦争や侵攻ではなく、「特別軍事作戦」だとロシア当局は言い張ってきたが、これにも新法は適用される。
新法では脱走すれば最高15年、敵国に投降すれば最高5年の禁錮刑が科される。軍需品の生産で政府の要請を断れば、企業経営者も4~8年の服役を覚悟しなければならない。