サイバー攻撃で「ロシア圧勝」のはずが...人類初のハイブリッド戦争はなぜ大失敗した?
A WAR OF CYBER SUPERPOWERS
まさかの大健闘を見せるウクライナ側
こうした激しい攻撃に見舞われながらもウクライナは、ハッキングの試みを妨害したり被害を最小限にとどめるなどの「サイバー防衛」によってロシアが期待する被害から国を守ることに大部分で成功。サイバー攻撃によってリアルな戦場での戦況を優位にしようとするロシアの思惑を阻止してきた。それどころか、「防衛」を越えてロシアへの積極的な「攻撃」にまで打って出ている。
ただウクライナが、それだけのサイバー能力を自分たちだけで得ることは難しかった。そこで手を差し伸べたのが、ウクライナを親欧米の国にとどめたいアメリカだ。14年以降、ウクライナのサイバー対策に多額の支援を行いながら、サイバー関係者への訓練なども施してきた。
元米政府関係者は言う。「18年からは、サイバー軍が対ロシア作戦や訓練のためにウクライナに関係者を送り込み、4000万ドル以上の支援も提供してきた」
加えて侵攻前の21年10月には、米IT大手マイクロソフトの関係者などをウクライナに派遣し、ロシアからの攻撃に向けた準備を行った。米情報機関は21年10月以降に、プーチンがウクライナを侵攻する意思があると世界に訴え、実際の侵攻までその主張を繰り返してきたが、その裏でサイバー攻撃対策を着々と進めていたのである。
「それが今回、ロシアによるサイバー攻撃が致命的なレベルになっていない理由の1つだと言える。欧米諸国からは、ロシアから狙われているターゲットや、これから起きる攻撃の兆候などもウクライナに伝えているし、攻撃が起きた後に犯人を特定する調査も協力している」と、元米政府関係者は述べる。ウクライナ政府のゾーラもこの関係者のコメントについて事実であると認め、「こうした支援には計り知れない価値がある」と語る。
アメリカからの支援はサイバー防衛についてだけではない。サイバー軍のナカソネは、英スカイニュースのインタビューで「われわれはウクライナで、攻撃的なサイバー工作や防衛、情報工作の全領域で一連の作戦を実施している」と明かした。
攻撃の詳細は機密事項としてほぼ公表されていないが、米軍が定めているサイバー戦略(JP 3-12)を踏まえると、兵器システムやC2(指揮統制)、兵站への妨害工作を行っている可能性が考えられる。