最新記事

ウクライナ戦争

サイバー攻撃で「ロシア圧勝」のはずが...人類初のハイブリッド戦争はなぜ大失敗した?

A WAR OF CYBER SUPERPOWERS

2022年9月22日(木)17時40分
山田敏弘(国際情勢アナリスト)

220927p18_YDH_05.jpg

ロシアはウクライナの通信事業者ウクルテレコム(写真)や電力会社DTEK(下写真)といったインフラを標的にしたサイバー攻撃も実行している JAAP ARRIENSーNURPHOTO/GETTY IMAGES

220927p18_YDH_06.jpg

VINCENT MUNDYーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

市民生活に打撃を与えるインフラ攻撃も

さらに、政府や市民生活に直接重大な打撃を与える可能性があるインフラに対する攻撃も続いている。3月には国営通信事業社ウクルテレコムがロシアのサイバー攻撃を受けてインターネットなど通信が80%ほど使えなくなった。また別の通信会社も同月に攻撃を受けている。開戦当日に行われたものを含め、通信を標的にした攻撃は、戦場の状況報告や指揮系統を攪乱させることも目的と思われる。

7月にはロシアのハッカー集団が、ウクライナ最大の民間電力会社DTEKグループの業務妨害を画策。内部データなどが盗まれたが、大事に至る前に食い止められた。ウクライナ国家特別通信情報保護局(SSSCIP)のビクター・ゾーラ副局長は本誌の取材に、4月にもウクライナの電力網が各所でサイバー攻撃を受けており、「ロシア軍のハッキング組織の仕業である」と指摘する。

そもそも、ロシアは今回の侵攻前から、ウクライナをサイバー攻撃の「実験場」と見なしており、激しいサイバー攻撃を繰り返してきた。「ロシアは2014年に起きたロシアのクリミア侵攻以降、ずっとウクライナに対してサイバー攻撃を継続してきた」と、ゾーラは言う。

ウクライナ政府によれば、14年の議会選挙ではロシアがウクライナ選挙委員会に攻撃を仕掛け、当選者の名前を勝手に入れ替えるマルウエア(不正プログラム)を埋め込んでいたことが発覚した。15年には電力会社がやはりロシアにハッキングされ、西部の広範囲で停電が起きる事態に。17年には、ウクライナ政府や企業などがシステムを破壊するウイルス「ノットペトヤ」による攻撃被害を受けている。

これら3つとも、犯人はロシア軍のGRUだ。そして侵攻直前の22年1月14日と2月15日にも、ウクライナの政府機関や民間企業を妨害するような激しいサイバー攻撃を実行した。

また、ハッカーなどが集まりサイバー攻撃のツールや不正アクセス情報がやりとりされる「ダークウェブ」にも動きがあった。地下ウェブのサイバー犯罪インテリジェンス分析で定評があるイスラエルのセキュリティー企業で日本にも進出しているKELAのリポートによれば、「行政機関、軍、金融部門へのサイバー攻撃とともに、ロシアの軍事行動に反対する意見に対する報復行為も行われている」という。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏のグリーンランド購入意欲、「冗談ではない

ビジネス

米司法省、HPEによるジュニパー買収阻止求め提訴

ビジネス

インテルの第4四半期、売上高が予想上回る 株価上昇

ビジネス

米アップル、四半期利益予想上回る iPhone・中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中