サイバー攻撃で「ロシア圧勝」のはずが...人類初のハイブリッド戦争はなぜ大失敗した?
A WAR OF CYBER SUPERPOWERS
市民生活に打撃を与えるインフラ攻撃も
さらに、政府や市民生活に直接重大な打撃を与える可能性があるインフラに対する攻撃も続いている。3月には国営通信事業社ウクルテレコムがロシアのサイバー攻撃を受けてインターネットなど通信が80%ほど使えなくなった。また別の通信会社も同月に攻撃を受けている。開戦当日に行われたものを含め、通信を標的にした攻撃は、戦場の状況報告や指揮系統を攪乱させることも目的と思われる。
7月にはロシアのハッカー集団が、ウクライナ最大の民間電力会社DTEKグループの業務妨害を画策。内部データなどが盗まれたが、大事に至る前に食い止められた。ウクライナ国家特別通信情報保護局(SSSCIP)のビクター・ゾーラ副局長は本誌の取材に、4月にもウクライナの電力網が各所でサイバー攻撃を受けており、「ロシア軍のハッキング組織の仕業である」と指摘する。
そもそも、ロシアは今回の侵攻前から、ウクライナをサイバー攻撃の「実験場」と見なしており、激しいサイバー攻撃を繰り返してきた。「ロシアは2014年に起きたロシアのクリミア侵攻以降、ずっとウクライナに対してサイバー攻撃を継続してきた」と、ゾーラは言う。
ウクライナ政府によれば、14年の議会選挙ではロシアがウクライナ選挙委員会に攻撃を仕掛け、当選者の名前を勝手に入れ替えるマルウエア(不正プログラム)を埋め込んでいたことが発覚した。15年には電力会社がやはりロシアにハッキングされ、西部の広範囲で停電が起きる事態に。17年には、ウクライナ政府や企業などがシステムを破壊するウイルス「ノットペトヤ」による攻撃被害を受けている。
これら3つとも、犯人はロシア軍のGRUだ。そして侵攻直前の22年1月14日と2月15日にも、ウクライナの政府機関や民間企業を妨害するような激しいサイバー攻撃を実行した。
また、ハッカーなどが集まりサイバー攻撃のツールや不正アクセス情報がやりとりされる「ダークウェブ」にも動きがあった。地下ウェブのサイバー犯罪インテリジェンス分析で定評があるイスラエルのセキュリティー企業で日本にも進出しているKELAのリポートによれば、「行政機関、軍、金融部門へのサイバー攻撃とともに、ロシアの軍事行動に反対する意見に対する報復行為も行われている」という。