ウクライナ北東部で撤退の屈辱を受けたプーチン 巻き返しは可能か?
■穀物輸出再開合意の破棄ないし縮小
プーチン氏は、国連とトルコの仲介で合意したウクライナの穀物輸出再開を巡り、ロシアと貧困国にとって公平さに欠ける内容だと不満を表明し続けている。
今週にはプーチン氏がこの合意の修正を議論するため、トルコのエルドアン大統領と会談する予定。プーチン氏が直ちにウクライナに打撃を与えたいと考えるなら、合意を停止もしくは破棄するか、11月の期限到来時に更新しないという選択肢がある。
西側諸国や中東・アフリカの貧困国はプーチン氏が世界的な食料不足を深刻化させたと非難するだろうが、プーチン氏はウクライナに責任を押しつけるとみられる。
■和平協定
ロシア大統領府は、適切な時期がくれば何らかの和平協定締結に向けた条件をウクライナに通知する意向だ。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、軍事力を駆使してロシアの制圧地を解放すると明言した。
ゼレンスキー氏が挙げる解放対象には、ロシアが2014年に強制編入したクリミア半島が含まれる。ロシア側は、クリミア問題は永久に解決済みと繰り返している。
ロシアは、ウクライナ東部の親ロシア勢力の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を国家として正式に承認しており、これらの地域をウクライナに譲り渡すことも政治的には不可能に見受けられる。
ロシアがウクライナ侵攻で最初に「大義名分」に掲げたのが、この2つの地域で迫害されている親ロシア住民を全面的に「解放する」ことだったからだ。
もちろんロシアは、部分的に制圧しているウクライナ南部の返還も国内世論に受け入れさせるのは難しい。南部ヘルソン州はクリミア北部と直接つながっている上に、クリミア半島に必要な水のほとんどを供給する要地。
また、ヘルソン州は、隣接するザポロジエ州とともにロシアがクリミア半島に物資を供給できる陸上回廊の役割も果たしている。
■核兵器使用
複数のロシア政府高官は、ロシアがウクライナで戦術核を使うのではないかという西側の見方を否定した。それでも西側には不安が残っている。
戦術核が投入された場合、大規模な被害が生じるだけでなく、事態がエスカレートして西側とロシアの直接戦争に発展しかねない。
ロシアの核ドクトリンは、ロシアが核兵器ないし他の種類の大量破壊兵器の先制攻撃を受けた場合、あるいは通常兵器によって国家の存亡につながる脅威がもたらされた場合、核兵器使用を認めている。
元駐ロシア英大使のブレントン氏は、プーチン氏が追い詰められ、面目を保てないほどの屈辱的敗北に直面したなら、核兵器を使う恐れがあると警告した。
ブレントン氏によると、ロシアが敗北、しかもひどい負け方をしてプーチン氏が失脚するか、それとも核兵器の威力を誇示してこうした事態を回避するかの選択を迫られるとすれば、プーチン政権が核兵器使用に踏み切らないと断言できないという。
米国の駐欧州陸軍司令官を務めたベン・ホッジス氏も、そのリスクはあると認めつつ、実際に核兵器が使われる確率は乏しいとの見方も示した。「使っても実際に戦場で優位に立てるわけではなく、米国が座視して何の対応もしないのは不可能なので、プーチン氏ないし彼の側近が自滅的行動に走るとは思わない」という。
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