今年はまだゼロ! 習近平が「一帯一路」をまったく口にしなくなった理由
The BRI in Disguise
どこかで聞いたような話だと思うかもしれない。そう、一帯一路も当初は、参加表明の証しとして覚書を締結した国の多さと、莫大な投資規模が大きな話題になった。
習は、6月のBRICS首脳会議の翌日に開催した「グローバル発展ハイレベル対話」で、従来の南南協力援助基金を、40億ドル規模の「グローバル発展・南南協力基金」にアップグレードすることを発表した。これも既視感があるかもしれない。一帯一路も資金源の1つとして「シルクロード基金」が設けられた。
中国政府は一帯一路とGDIは別物とするが
中国政府は、GDIは一帯一路に代わるものではないと主張する。王は、GDIと一帯一路は「伝統的な領域における協力を推進するとともに、新たな重点事項を推進するツインエンジンだ」と語った。さらに、GDIは「一帯一路や、アフリカ連合のアジェンダ2063、そしてアフリカ開発のための新パートナーシップ等の構想と相乗効果を生み出す」と自信を示した。
しかし中国政府高官の言動から受ける印象は正反対だ。一帯一路は休眠状態で、GDIばかりがもてはやされ、対外的に推進されている。それでも世界の国々を相手にしたとき、GDIが一帯一路に比肩するインパクトを持つことはないだろう。
なぜか。それは一帯一路にはシルクロードの再建という神秘性と物語性と夢があるからだ。そこにはGDIも欧米の類似プロジェクトも持ち得ない強烈な魅力がある。この魅力があるからこそ、一帯一路は当初、中国のソフトパワーと世界的な存在感を高める役割を果たしたのだ。
どんなにGDIのほうが新しくて、より綿密に計画されていても、一帯一路のように欧米諸国で熱狂的な反応を引き起こすことはないし、中国外交のPR力を高めることもないだろう。実際、中国の外に出れば、GDIが政府高官やメディアの話題になることはほとんどない。
この10年ほどで、中国のイメージが悪化して、中国が提案する構想は、なんであれ疑念を抱かれるようになったことも痛い。多くの国に幅広く受け入れられなければ、中国の壮大な世界的構想も名ばかりの存在にとどまるだろう。
だから中国は、一帯一路という極上のブランドを捨てるべきではない。ただし、アメリカやEUや日本やインドなどの主要国や国際機関に有害な構想だと思われないように、その目的や活動内容を明確に定義する必要がある。
一帯一路は、多くの批判によって傷ついたものの、まだ死んでいないし、容易に消えることもないだろう。これは中国外交のブランド戦略の問題だ。どんなに政府高官がGDIを連呼しても、一帯一路ほどの魅力はないことは、彼らも気付いているはずだ。
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