最新記事

中国外交

今年はまだゼロ! 習近平が「一帯一路」をまったく口にしなくなった理由

The BRI in Disguise

2022年9月14日(水)17時36分
アンドレア・ブリンザ(ルーマニア・アジア太平洋研究所副代表)

220920p32_ITR_02.jpg

インドネシアでは中国出資の高速鉄道網建設が進む AJENG DINAR ULFIANAーREUTERS

習によると、GDIは人々の暮らしを改善し、途上国を支援し、イノベーションを起こし、人と自然をつなぐ存在となることにより、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に新たな原動力をもたらすものだ。

つまりGDIは、より環境に配慮し、より高い質を目指す「一帯一路の改善版」と解釈することができる。だがその実態は、中国のニーズを満たす新たなスローガンにすぎない。それだけにGDIの発表以来、一帯一路の先行きは一段と不透明になった。

再び要人のスピーチを見ると、習がGDIを発表した後に、中国政府高官がGDIに言及したスピーチは28件あった。一帯一路に言及したスピーチも25件あったが、このうち16件は「質の高い一帯一路共同建設」という表現だった。

習のスピーチに限定すると、この傾向はもっと明白だ。15回のスピーチのうち、GDIに言及したのは14回で、一帯一路は8回だけ。その全てが「質の高い一帯一路共同建設」という表現だった。

特にここ数カ月、習は一帯一路に全く言及しなくなった。一方、6月に議長を務めたBRICS首脳会議は、「質の高いパートナーシップを構築し、グローバルな発展の新時代を共に構築すること」をテーマに設定。中国外交の新しいブランドとしてGDIを改めて強調し、途上国同士の南南協力や知識共有を訴えた。

なぜ、中国政府高官の談話で「一帯一路」は「一帯一路共同建設」へと変わり、一帯一路を中心とするコンセプトは「グローバル発展イニシアティブ」へと変わったのか。

「債務の罠」を仕掛けているという悪評

その一因は、この5年ほどで一帯一路のイメージが著しく悪化したことにありそうだ。

中国が途上国のインフラ整備を「支援する」に当たり、相手国の返済能力を著しく超える資金を貸し付けて、案の定返済に窮した国から、そのインフラの権益を取り上げる「債務の罠」を仕掛けているという非難が、世界各地から聞かれるようになった。

外国への進出の仕方が植民地主義的だとか、生態系を破壊しているとか、完成したインフラの質があまりに劣悪といった批判もある。

こうした声を受け、中国は問題を改善したり、一帯一路の範囲や目的を明確にしたりするのではなく、一帯一路からGDIに看板を掛け替えることにした。だからこそ、名前だけは新しいけれど、GDIの内容は一帯一路と同じように漠然としているのだ。

一帯一路という看板が登場する前の12~13年に、習が「シルクロード経済ベルト」や「海上シルクロード」といった構想を口にするようになったように、GDIの正式発表前にも、習は「グローバルな発展」という表現をよくするようになった。

昨年9月の国連総会で発表して以来、GDIには世界100カ国以上が支持を表明し、50カ国以上が「GDIフレンズグループ」への参加に関心を示したという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独バイエル、26年業績見通しで米関税の影響による修

ワールド

米イラン停戦合意、 トランプ氏は完全勝利と主張

ビジネス

アングル:スペースXの大型IPO、投資需要吸収され

ワールド

トランプ氏、ホルムズ海峡の船舶滞留問題で支援表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命防衛隊と消耗戦に
  • 4
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 5
    「王はいらない」800万人デモ トランプ政権への怒り…
  • 6
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 7
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 8
    【後編】BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音…
  • 9
    5日間の寝たきりで髪が...ICUに入院した女性を襲っ…
  • 10
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 7
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 8
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 9
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 10
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中