最新記事

ウクライナ

ウクライナ戦争の帰趨を決める「ヘルソンの攻防」が始まった

Why Kherson Is Key to Vladimir Putin's War as Counter-Offensive Begins

2022年8月31日(水)18時14分
ブレンダン・コール

ドニエプル川の船の後ろに昇る噴煙(7月24日) Alexander Ermochenko- REUTERS

<ロシアが占領した南部の主要都市ヘルソンの奪還に向けてウクライナ軍が反撃を開始。もし成功すれば、クリミア奪還も夢ではなくなるかもしれないが、政府が過度の楽観視を戒める訳は>

ドニエプル川が黒海に注ぐ河口にあるウクライナ南部の港湾都市ヘルソンは、ウラジーミル・プーチンのロシア軍が本格的なウクライナ侵攻を開始した後、最初に制圧した主要都市だ。今、この都市は、ウクライナ軍が領土を奪還するための攻防の焦点だ。

ウクライナ側が同市の周辺にあるロシア軍陣地を攻撃したと発表したため、ヘルソン州を奪還するウクライナ軍の試みが進行しているのではないか、との憶測も呼んでいる。

「ロシアが支配するドニエプル川西岸へルソン州の占領地を奪還することは、ウクライナ政府にとって心理的にも政治的にも大きな勝利となるだろう」と、コネチカット州ウェズリアン大学のピーター・ラトランド教授(ロシア・東欧・ユーラシア研究)は言う。

ロシアの手に落ちた州都はヘルソン市しかない。ヘルソンを失えば、ロシアが対岸のオデーサを奪取することもはるかに難しくなる」と彼は本誌に語った。

「もっとも、ヘルソン市を奪い返してもなお、ドニエプル川東岸にはザポリージャー原子力発電所を含む広大なロシアの占領地が残る」

ウクライナ大統領府は8月30日、この地域で昼夜を問わず「強力な爆発」と「厳しい戦闘」があったと報告した。同報告書は、ウクライナ軍が弾薬庫と、ロシア軍が物資の運搬に必要とするドニエプル川の大きな橋をすべて破壊したと伝えた。

過度の楽観視は警戒

ロシアの通信社タス通信によると、30日にはヘルソンで5回の爆発があったが、これは防空システムの作動による可能性が高い。

一方、ウクライナ軍の南方作戦司令部は、ドニエプル川を渡るための舟橋やヘルソン地域の12カ所の司令部を破壊したと報告している。

本誌は、ウクライナとロシアの国防省にコメントを求めた。

ウクライナは6月下旬から、アメリカから供与された高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)でドニエプル川にかかる橋を攻撃し、ロシア軍の弾薬や重機の補給を中断させている。

反撃を始めたと発表したものの、ウクライナ当局は過度の楽観視を警戒している。オレクシー・アレストビッチ大統領顧問はテレグラムの自身のアカウントで、反撃について「敵を粉砕するためのゆっくりとした作戦」と表現した。

「わが軍が大規模な攻勢をかけ、1時間で居住地を奪還したというニュースを聞くことを、多くの人が望んでいる」と、彼は書いた。

だが今回の戦闘報道でわかったのは、スウェーデンの元首相で外交官のカール・ビルトが6月28日に語った「ヘルソン地域の支配権をめぐる戦いは、これまでのウクライナの戦争の最も重要なカギになる」という予測が確かだったということだ。

ビルトは、ヘルソンには「ウクライナを黒海から完全に切り離すというロシアの明確な意図がある」とツイートした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中