ウクライナ戦争の帰趨を決める「ヘルソンの攻防」が始まった
Why Kherson Is Key to Vladimir Putin's War as Counter-Offensive Begins
ドニエプル川の船の後ろに昇る噴煙(7月24日) Alexander Ermochenko- REUTERS
<ロシアが占領した南部の主要都市ヘルソンの奪還に向けてウクライナ軍が反撃を開始。もし成功すれば、クリミア奪還も夢ではなくなるかもしれないが、政府が過度の楽観視を戒める訳は>
ドニエプル川が黒海に注ぐ河口にあるウクライナ南部の港湾都市ヘルソンは、ウラジーミル・プーチンのロシア軍が本格的なウクライナ侵攻を開始した後、最初に制圧した主要都市だ。今、この都市は、ウクライナ軍が領土を奪還するための攻防の焦点だ。
ウクライナ側が同市の周辺にあるロシア軍陣地を攻撃したと発表したため、ヘルソン州を奪還するウクライナ軍の試みが進行しているのではないか、との憶測も呼んでいる。
「ロシアが支配するドニエプル川西岸へルソン州の占領地を奪還することは、ウクライナ政府にとって心理的にも政治的にも大きな勝利となるだろう」と、コネチカット州ウェズリアン大学のピーター・ラトランド教授(ロシア・東欧・ユーラシア研究)は言う。
ロシアの手に落ちた州都はヘルソン市しかない。ヘルソンを失えば、ロシアが対岸のオデーサを奪取することもはるかに難しくなる」と彼は本誌に語った。
「もっとも、ヘルソン市を奪い返してもなお、ドニエプル川東岸にはザポリージャー原子力発電所を含む広大なロシアの占領地が残る」
ウクライナ大統領府は8月30日、この地域で昼夜を問わず「強力な爆発」と「厳しい戦闘」があったと報告した。同報告書は、ウクライナ軍が弾薬庫と、ロシア軍が物資の運搬に必要とするドニエプル川の大きな橋をすべて破壊したと伝えた。
過度の楽観視は警戒
ロシアの通信社タス通信によると、30日にはヘルソンで5回の爆発があったが、これは防空システムの作動による可能性が高い。
一方、ウクライナ軍の南方作戦司令部は、ドニエプル川を渡るための舟橋やヘルソン地域の12カ所の司令部を破壊したと報告している。
本誌は、ウクライナとロシアの国防省にコメントを求めた。
ウクライナは6月下旬から、アメリカから供与された高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)でドニエプル川にかかる橋を攻撃し、ロシア軍の弾薬や重機の補給を中断させている。
反撃を始めたと発表したものの、ウクライナ当局は過度の楽観視を警戒している。オレクシー・アレストビッチ大統領顧問はテレグラムの自身のアカウントで、反撃について「敵を粉砕するためのゆっくりとした作戦」と表現した。
「わが軍が大規模な攻勢をかけ、1時間で居住地を奪還したというニュースを聞くことを、多くの人が望んでいる」と、彼は書いた。
だが今回の戦闘報道でわかったのは、スウェーデンの元首相で外交官のカール・ビルトが6月28日に語った「ヘルソン地域の支配権をめぐる戦いは、これまでのウクライナの戦争の最も重要なカギになる」という予測が確かだったということだ。
ビルトは、ヘルソンには「ウクライナを黒海から完全に切り離すというロシアの明確な意図がある」とツイートした。