最新記事

ウクライナ情勢

本人も困惑している「プーチンの負け戦」──主導権はウクライナ側へ

Putin’s Botched War

2022年8月30日(火)16時13分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

これは今や米軍と情報機関全ての見解が一致しているところだが、プーチンはロシアの軍隊がウクライナの民衆に「解放軍」として歓待されるものと確信していた。

彼はかねてからロシアとウクライナの両国は歴史、文化、宗教、そして言語さえも共有する一つの国であると説いていた。だから8年前にクリミア半島とドンバス地方の一部を強奪すると、次なる作戦の計画を練った。そして、この8年でウクライナは一段と弱体化したと信じた。

なにしろ今のウクライナの指導者(つまり大統領のウォロディミル・ゼレンスキー)はコメディアン出身で、勝利体験としてはダンスの腕前を競うリアリティー番組で優勝したことくらい。そんな男を失脚させ、ウクライナ全土を掌握するのは簡単だと、プーチンは判断した。

だからこそ、まずは数万のロシア兵を同盟国ベラルーシに送り、北からウクライナの首都キーウ(キエフ)に攻め入ることにした。

数的優位は明らかだから、最短72時間で首都を攻略できるとプーチンは踏んだ。ある意味、西側諸国もそういう判断を助長した。西側はロシアの戦争能力を過大評価する一方、ウクライナの防衛力を過小評価していた。

結果はどうだったか。首都へは迫れず、プーチンの戦争計画の大前提が崩れた。地上部隊は迅速に動けない。戦車や装甲車は道路で立ち往生し、物資等の補給は途絶えた。送り込んだ特殊部隊や空挺部隊は待ち伏せされた。ウクライナの防空システムを無力化するミサイル攻撃も失敗した。

柔軟性を欠くロシア

米CIA長官ウィリアム・バーンズは7月に、短期決戦での勝利を逃したのは「プーチンにとって戦略的な失敗」だったと指摘している。

戦いが長引いたことで、ウクライナ側は西側からの武器供与を待つことができた。同国のオレクシー・レズニコフ国防相は言った。「こちらの資源は限られているから、ロシアのような戦い方はできない」

違う戦い方ができるのは、高機動ロケット砲システムHIMARS(ハイマース)など、精密攻撃のできる兵器が届いたからだ。おかげでドニプロ(ドニエプル)川に架かる橋や後方のロシア軍陣地も攻撃できる。

それでもなおロシア側の戦術は変わらない。プーチンの固い縛りがあるからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中