最新記事

ウクライナ情勢

本人も困惑している「プーチンの負け戦」──主導権はウクライナ側へ

Putin’s Botched War

2022年8月30日(火)16時13分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)
プーチン

Sputnik Photo Agency-REUTERS

<「有能な最高司令官」と肥大したエゴで独り善がりの作戦を強行し、ロシア軍は誤算を重ねる一方、「量より質」のウクライナ軍は自信を深めつつある。勝負は「来年」の春か>

まさか、まさかの展開である。2月24日の開戦から半年が過ぎたというのに、まだウクライナ戦争は続いている。侵攻を決断したロシア大統領ウラジーミル・プーチン自身を含め、ほとんど誰も予想できなかった事態だ。

しかしウクライナは大国ロシアの軍勢を相手に、なんとか持ちこたえている。西側からはそこそこの武器供与がある程度で、各国政治家の口先支援はあっても援軍は来ていないのに、だ。

祖国の存亡が懸かっているから、ウクライナ兵の士気は高い。対するロシア兵にはまともな現地指揮官がいないし、支給される武器は劣悪で、補給も当てにならない。

そもそも最高司令官のプーチンが兵士たちの足を引っ張っている。プーチンは情勢を読み誤り、ウクライナ政府を転覆できると信じて侵攻を命じた。その後は東部ドンバス地方の制圧に目標を変えたが、うまくいかずに兵力を消耗させるばかりだ。

しかも制服組トップの将官たちの意見を聞かず、気に入らなければクビを切っている。戦場で死んだ将官も10人以上だ。残る将官はプーチンの怒りを買うまいと、(米情報当局の推測によると)不都合な情報を隠している。

プーチンはロシア国民とも戦っている。自由を奪い、ロシア軍の損失についての実情を明かさない。戦死者の遺体や傷病兵を人目につかないよう夜間に移送させ、親族への通知も遅らせている。

アメリカの軍部や情報機関の高官たちは本誌に、この戦争は想定外のことだらけだと語った。しかし最も重要なのは、プーチンが自分の部下をまったく信用していない点だという。

匿名を条件に取材に応じた情報機関の高官に言わせれば、プーチンは「独裁者の常として、自分が誰よりも、軍隊よりも、どんな専門家よりも賢いと信じている」。

勝利確実との思い込み

プーチンが軍隊にいたのは1975年のほんの数カ月だけで、ソ連軍の砲兵隊に所属していた。その後はずっとKGB(国家保安委員会)にいた。そしてロシア政府を率いてきた過去22年間で3つの国内戦とシリアでの作戦を指揮した。

それで自分は有能な最高司令官だと思い込み、ついでにロシアの軍隊は絶対に負けないと信じるようになった。そんな肥大したエゴの持ち主のいいかげんな判断で、この戦争の行方は決まる。前線の兵士は使い捨てだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ政府、今年の経済成長予測をゼロに下方修正=関

ワールド

ガソリン10円引き下げ、夏場に電気・ガス代補助 石

ワールド

イスラエル、ガザ攻撃強化 封鎖でポリオ予防接種停止

ワールド

イスラエル、ベイルート南部空爆 スンニ派武装組織の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 6
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 10
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中