本人も困惑している「プーチンの負け戦」──主導権はウクライナ側へ
Putin’s Botched War
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<「有能な最高司令官」と肥大したエゴで独り善がりの作戦を強行し、ロシア軍は誤算を重ねる一方、「量より質」のウクライナ軍は自信を深めつつある。勝負は「来年」の春か>
まさか、まさかの展開である。2月24日の開戦から半年が過ぎたというのに、まだウクライナ戦争は続いている。侵攻を決断したロシア大統領ウラジーミル・プーチン自身を含め、ほとんど誰も予想できなかった事態だ。
しかしウクライナは大国ロシアの軍勢を相手に、なんとか持ちこたえている。西側からはそこそこの武器供与がある程度で、各国政治家の口先支援はあっても援軍は来ていないのに、だ。
祖国の存亡が懸かっているから、ウクライナ兵の士気は高い。対するロシア兵にはまともな現地指揮官がいないし、支給される武器は劣悪で、補給も当てにならない。
そもそも最高司令官のプーチンが兵士たちの足を引っ張っている。プーチンは情勢を読み誤り、ウクライナ政府を転覆できると信じて侵攻を命じた。その後は東部ドンバス地方の制圧に目標を変えたが、うまくいかずに兵力を消耗させるばかりだ。
しかも制服組トップの将官たちの意見を聞かず、気に入らなければクビを切っている。戦場で死んだ将官も10人以上だ。残る将官はプーチンの怒りを買うまいと、(米情報当局の推測によると)不都合な情報を隠している。
プーチンはロシア国民とも戦っている。自由を奪い、ロシア軍の損失についての実情を明かさない。戦死者の遺体や傷病兵を人目につかないよう夜間に移送させ、親族への通知も遅らせている。
アメリカの軍部や情報機関の高官たちは本誌に、この戦争は想定外のことだらけだと語った。しかし最も重要なのは、プーチンが自分の部下をまったく信用していない点だという。
匿名を条件に取材に応じた情報機関の高官に言わせれば、プーチンは「独裁者の常として、自分が誰よりも、軍隊よりも、どんな専門家よりも賢いと信じている」。
勝利確実との思い込み
プーチンが軍隊にいたのは1975年のほんの数カ月だけで、ソ連軍の砲兵隊に所属していた。その後はずっとKGB(国家保安委員会)にいた。そしてロシア政府を率いてきた過去22年間で3つの国内戦とシリアでの作戦を指揮した。
それで自分は有能な最高司令官だと思い込み、ついでにロシアの軍隊は絶対に負けないと信じるようになった。そんな肥大したエゴの持ち主のいいかげんな判断で、この戦争の行方は決まる。前線の兵士は使い捨てだ。