最新記事

日本社会

謎の中華系集団が江戸川でカキ殻清掃をする意外な理由 中国人をヘイトする中国人に見る問題

2022年8月29日(月)18時05分
安田峰俊(ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員) *PRESIDENT Onlineからの転載

逮捕者も出たカキ殻の不法投棄問題

彼らはやがて、江戸川で数十人以上の中国人が勝手にカキを採り、殻を周囲に大量に投棄して社会問題になっていることを知る(注.これ自体は5年ほど前から深刻な問題として報じられており、今年7月にはカキ殻約10キロを投棄した容疑で27~59歳の中国籍の女が逮捕されている)。

そこで、仲間うちで呼びかけてカキ殻回収と清掃活動をおこなうことにした。ノリとしては、「やらない善よりやる偽善」のミームで知られる往年の2ちゃんねらーの湘南ゴミ拾いオフ(2002年)などと近い行動だろう。代表者は言う。

「本当は(活動についての)報道いらないです。好きで勝手にやってるだけなので」

とはいえ、中心メンバーは日本で就職や起業をしていて、日本語も流暢な30歳前後のいい大人だ。活動にあたっては地元の市民団体にしっかり話を通し、在日中国人叩くような抗議の主張は薄め、清掃それ自体は政治色のないボランティアという形にした。

中国大使館員が来たら「中指を立てます」

私が見に行った8月の清掃で3回目だという。前出の通り、知人に誘われて来ただけで政治的な考えは持たない(体制への意見はない)年配の在日中国人や、他にブラジルやベトナムなど各国の外国人も多く参加しており、さらに日本人もいるので、客観的に見ればただの「よい活動」である。

江戸川でカキ殻清掃をする母子を取材するNHK

8月7日、NHK(左2人)が取材に来ていたが、活動の代表者の男性らがハンドルネームだけを名乗り、顔出し撮影もNGだったことで、日本人母子の参加者に向かう。放送でもこの母子のコメントが使われた。  筆者撮影

だが、ここまで目立っていて大手メディアも取材に来ているなら、そう遠くない将来に中国大使館から『協力』を申し出られ、中華民族の優秀な美徳を体現する在日華人同胞としてプロパガンダに使われるのではないだろうか。清掃の終了後、中心メンバーの2人に、活動の場に大使館員が来たらどうするかを尋ねたところ、以下のように即答された。

「めちゃくちゃ罵倒します」
「中指を立てます」

本来の動機と主催者の心情はさわやかではないはずだが、結果的にはさわやかな活動がおこなわれている江戸川のカキ殻清掃作戦。今後も月に1回程度のペースで続けていくとのことである。

中国のことを「支那」と呼ぶ中国人たち

今回の彼らのような「支黒」系のネットユーザーは、ネタ半分本気半分という形ながら、"中国人をヘイトする中国人"という特殊なポジションの人々である。近年の中国のネット空間では、反中国的な言説に必ず噛みつき過激な反米・反日的言説を振りまく「小粉紅」(xiǎo fěn hóng)と呼ばれる中国版のネット右翼が主流のネット民意を形成しており、「支黒」はこれに対する戯画的なカウンターという立場だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中