最新記事

日本社会

謎の中華系集団が江戸川でカキ殻清掃をする意外な理由 中国人をヘイトする中国人に見る問題

2022年8月29日(月)18時05分
安田峰俊(ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員) *PRESIDENT Onlineからの転載

「クソみたいな体制」を支持する中国人は「救いがたい」

「あ、どもども。ツイッターをフォローしてます」

そして、彼らは私と面識がないはずなのに、親近感を示してくる人がいた。どうやら、私がこれまでプレジデント・オンラインに寄稿した大翻訳運動おっぱい肉まん作戦の記事を読んでいたためらしい。代表者の1人である29歳の男性は話す。

「今回の活動を呼びかけたのは、ツイッターやLINEの(中国共産党に批判的な)話題でつながっているグループです。でも、活動それ自体で政治的な主張をアピールしようとは思っていないです。参加者には知り合いに誘われて来た普通の人もいますし」

江戸川でカキ殻清掃をする人

地元のおじさんたち(日本人)も参加している。  筆者撮影

どうやら活動の中心は、中国の現体制に反発するオタク系中国人ネットユーザーのグループのひとつらしい。もうすこし詳しく聞くと、中国のネット民のなかでも、私が以前の記事で書いた「浪人」(Chonglan)と近いマインドを持つ人々のようだ。

事実、他のメンバー2人に話しかけてみると、「清掃活動とは無関係な個人の意見」と断った上で、非常に流暢な日本語で話し出した。

「自分が中国人でいたくないんですよ。あんなひどい国の国民でいるくらいなら、無国籍の外国人でいたいです。大戦当時にナチス体制を嫌って海外にいた反ナチのドイツ人みたいな感じです」

「日本みたいな民主主義の国の人たちは『中国政府と中国人は別だから、中国人とは仲良く』とか言いますよね。僕らはそう思わないです。ああいうクソみたいな体制に反抗しないで、むしろ喜んで選んで支持している時点で、そもそも中国人自体が根本的に救いがたい連中だと」

「日本に迷惑をかける中国人は許せない」

現代中国のオタクたちは、ゼロ年代後半ごろの中国の大規模位掲示板「百度貼吧」(bǎi dù tiē ba)の、一部のコミュニティでみられたユーザー文化のノリを継承している。すなわち、往年の2ちゃんねるやその類似・関連サイトの影響をうけた、悪ふざけや不謹慎ネタを好むネットカルチャーだ。アメリカでアノニマスやQアノンの母体になった4chや8kunとも、広い意味では根を同じくしている。

ただし近年の中国の場合、いわゆるメジャーなカルチャーが習近平政権の礼賛と愛国主義の宣伝で真っ赤に染まっていることから、ネット民の一部はそれに反発する形で、激しい反中国共産党・反習近平(「反共反習」)や反中国人(「支黒」)の色彩を帯びることになった。

現在、中国国内外における30歳前後の若い中国人は、基本的に自国の体制を支持しているか、すくなくとも好意的中立という立場の人が多い。ただ、反体制系のネットカルチャーと日本のアニメなどの二次元文化の親和性が高いためか、在日中国人の場合は若者の1割くらいは中国政府に批判的な人がいる(極端な立場である「支黒」はもうすこし少ないが)。事実、江戸川のグループの代表者の1人も話す。

「僕らはもともと、在日中国人のマナー問題や反日的な言動を調べていた有志のグループです。日本が好きでこの国に来ていますから、日本に迷惑をかける中国人は許せないと思って。有名私立大学の留学生入試の、カンニンググループの微博(LINEに似た中国のメッセンジャーアプリ)のグループに潜入したりしていました」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中