ミャンマーで拘束されたジャーナリスト久保田氏に初公判 追加訴追で拘束長期化の恐れも
久保田氏はこのロヒンギャ族問題を主に取材してドキュメンタリーをネット上などに公表しており、この活動が治安当局の目に留まり、さらなる訴追の対象とされているようで、ゾー・ミン・トゥン国軍報道官は「誤った情報で制作したドキュメンタリー作品を日本で紹介した」と久保田氏を批判した。
今回新たな容疑での訴追の可能性が出たことは久保田氏の早期釈放への希望を打ち砕くものとして関係者の懸念は高まっている。
久保田氏の次回公判は30日に予定されている。
昨年拘束された北角氏は1カ月で解放
やはり日本人ジャーナリストがミャンマーで拘束された事例としては、2021年4月18日に反軍政デモを取材中だったフリージャーナリスト北角祐樹氏の例がある。治安当局により逮捕、訴追を受けて収監された北角氏だったが、日本からミャンマーを訪れた民間人や元政治家などによる「早期釈放要求」が受け入れられたためか、逮捕後約1カ月の5月14日に釈放され、国外退去処分で無事に日本に帰国している。
今回の久保田氏に関しても日本から自民党の渡辺博道・元復興大臣が8月11日にミャンマーを訪問。首都ネピドーで軍政トップのミン・アウン・フライン国軍司令官と会談して久保田氏の早期釈放を求めている。
渡辺氏に対しミン・アウン・フライン国軍司令官は「久保田氏を近く釈放する。日時は追って連絡する」と応え、久保田氏の早期釈放が実現しそうな状況になっていた。
久保田氏の早期釈放を求めた渡辺氏とミン・アウン・フライン国軍司令官との会談の成果は不明だが、軍政が明らかに日本を無視できない相手国と思っていることは間違いなく、いずれの時期かは不明だが北角氏のケースのように裁判の判決後に収監・服役することなく特例として釈放され強制退去処分になるとみられている。
ミャンマーと日本の関係はクーデター後もほぼ変わらず対日輸出は今年5月の時点でも前年同月実績を70%近く上回り、プラスの成長がこれで5カ月目となったという。輸出品目は主に衣類や農産物でこれが好調だったことが大きな要因とされている。
またキリンホールディングスのミャンマーでの2022年1月から6月までの事業利益が46億円に上ることも報道で明らかになっている。キリンホールディングスでは現地ミャンマーの子会社でビールの製造・販売を手掛けている。
このようにミャンマーと日本の関係は経済的に良好な状態が続いているといい、軍政も日本を無視できない主な理由となっているのは間違いないとみられており、久保田氏の身柄の扱いにも影響してくるのは確実との見方が有力だ。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など