原発は新たな黄金時代へ ウクライナ紛争によるエネルギー危機が追い風に
複数の専門家の話では、世界の製造業の拠点が集まるアジアは再生可能エネルギーを補完し、化石燃料の代わりになる「ベースロード電源(季節や昼夜、天候を問わず一定量を低コストで供給できる電源)」を求めているので、原発の新規建設をけん引する地域になるだろうという。
IEAは先月、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするには、世界全体の原子力発電能力を2倍に引き上げ、電気自動車(EV)に提供するとともに、水素やアンモニアといった非化石燃料を生産して重工業の排出量削減につなげなければならないと指摘した。
コロナ禍で工期が長引くも、各国が推進
ロールスロイス子会社、ロールスロイスSMRのポール・スタイン会長は先月、シンガポールやフィリピン、日本では小型モジュール炉(SMR)のような新技術導入が議論されていると述べた。SMRは従来の原子炉に比べ、建設期間が短縮化されて費用も安くなる。
スタイン氏はインタビューで「極東の高度に工業化された経済諸国では、工業化が進んでいる欧州や米国と同じか、それ以上に急速な原発の増加が求められている」と語った。
従来の原発でも耐用年数が終わるまでの平均発電コストは、現在の価格に基づく天然ガス火力発電の半分未満で、これは石炭火力も同様なだけに、各国が原発プロジェクトを復活させる要因になっている、とウッド・マッケンジーのウィットワース氏は説明する。
ウィットワース氏の話では、足元で原子力はアジア太平洋地域の電力の約5%を提供しているが、2030年には8%まで高まる見込みだ。
一方、福島第1原発事故の後に追加された安全性審査の項目や新型コロナウイルスのパンデミックに起因する工事の遅れと費用増加は、プロジェクトにとって悩みの種と言える。
さらに専門家によると、原子炉の初期費用の高さと、放射性廃棄物処理を巡る問題、全般的な安全性への不安も建設の妨げになっている。
仏大手電力会社・EDFが英国で建設中の原発「ヒンクリーポイントC」も予算が膨れ上がり、稼働開始は当初約束した時期から10年遅れる見通し。EDFはパンデミックによって人員や資源、サプライチェーン(供給網)の面で制約を受けたのが原因だとしている。
米国ではジョージア州にあるボーグル原子力発電所の3号機と4号機が、6年遅れで来年運転を始める。建設費用は当初の2倍以上に膨らみ、300億ドルに達した。
調査会社クリアビュー・エナジー・パートナーズのアナリスト、ティモシー・フォックス氏は「ばく大な超過費用と長期の遅れは、大規模原発の建設を望む向きに不安をもたらしたのは間違いない」と述べた。
それでもバイデン政権は、昨年議会で承認された原子力セクターを支援する60億ドル規模の計画を実行しつつあり、追加支援にも前向きだ。7月27日に上院に提出された法案が可決されれば、新型の原発建設を後押しし、古い原発の閉鎖を阻止できる可能性がある。
欧州では今のところ建設中の原発は数カ所にとどまるとはいえ、フランスは2050年までに最大14基の原子炉を新設する計画。欧州連合(EU)は今月、原子力発電への投資を環境にプラスとなる「グリーン投資」に認定しており、新規プロジェクトには官民の資金が流入するとみられる。
(Enrico Dela Cruz記者、Florence Tan記者、Timothy Gardner記者)
