「国際刑事裁判所への復帰を考えず」 比マルコス新大統領、ドゥテルテの人権無視路線を継承か
ドゥテルテ大統領在任当時、マニラの大統領宮殿前でダイインを行い超法規的殺人に抗議する市民 Romeo Ranoco-REUTERS
<独裁政権の二世同士がコンビを組んだ新政権は、国際社会の批判を無視し続けるのか?>
フィリピンのマルコス新大統領は国際刑事裁判所(ICC)に再び加盟することはない、との考えを内外に示した。ドゥテルテ前大統領は麻薬関連犯罪の捜査で警察官らによる現場での容疑者射殺などを黙認したいわゆる「超法規的殺人」という政策を推し進めた。これに対し、ICCは「人権侵害の恐れがある」として予備捜査に乗り出し、反発したドゥテルテ前政権は2019年3月17日にICCから正式に脱退した。
フィリピン側は「もはやICCのメンバーではなく、捜査を受ける理由はない」としているが、ICC側は「メンバー国だった期間の犯罪は脱退後も捜査、訴追される可能性がある」として訴追に向けてドゥテルテ前大統領の捜査を進めているとされる。
こうした状況のなか、マルコス新大統領は8月1日にパシグ市のコロナワクチン接種会場で報道陣に対し「フィリピンはICCに再び参加するつもりはない」と明言して、ICCへの復帰とICCによる捜査への協力を否定した。
マルコス新大統領はこの姿勢を明確にする前に新閣僚による会議を設け、そこで意見を調整。この方針は政府としての総意であるとしている。
新大統領のドゥテルテ前大統領への配慮
今回のマルコス新政権の方針は、ドゥテルテ前大統領の訴追を逃れるための「政治的配慮」が背景にあるといわれている。
ドゥテルテ前大統領は歴代政権が反発を恐れて実行に踏み切れなかったマルコス新大統領の父親であるマルコス元大統領の遺体をマニラ首都圏にある「英雄墓地」への移送、埋葬を実現させた。
マルコス元大統領は1986年の民主化運動による「ピープルパワー革命(エドゥサ革命)」により政権を追われ、米ハワイに事実上亡命して1989年に彼の地で死去した。
その後遺体はフィリピンに運ばれ、ルソン島北部北イロコス州バタックにあるマルコス氏の実家敷地内に設置された冷凍設備完備の霊廟に保管され、写真撮影こそ禁止されているものの一般公開もされていた。
しかしイメルダ夫人をはじめとする親族は、マルコス元大統領の遺体を大統領経験者や戦没者らが眠るマニラ首都圏の「英雄墓地」への埋葬を長年訴えてきたが、マルコス政権下で父親が暗殺されたアキノ前大統領らが反対してきた経緯がある。こうした長年の課題について「国民の和解」を理由としてマルコス元大統領の英雄墓地埋葬を決定したのがドゥテルテ前大統領だった。