訪台計画は夏休みに合わせた、単なるペロシの政治的パフォーマンス?
What is Pelosi Thinking?
問題は、もしペロシが台湾訪問を断念すれば、中国の圧力によって、アメリカの台湾への関与が制限されたように見えることだ。
それは、「アメリカは衰退しつつある大国であり、世界の舞台では中国の強硬な態度が受け入れられつつある」という、中国の思い込みを補強しかねない。それはバイデンを批判する共和党に、バイデンが中国に対して弱腰だと非難する材料を与えることにもなる。
その一方で、もしペロシが中国政府の警告を無視して台湾訪問を強行すれば、新たな台湾危機の引き金を引きかねない。既にこの1年ほど、中国の軍用機が台湾のADIZ(防空識別圏)に侵入するケースが何度もあった。
中国軍機がペロシの搭乗する米軍機の台湾着陸を妨害したり、台湾に対して中国のADIZを宣言する可能性さえある。そうなれば、世界が頼りにする台湾の半導体産業のサプライチェーンが大きく乱れる恐れがある。
ある中国研究者は、ペロシが台湾訪問を強行すれば、中国政府は「前例のない対抗措置」を講じるだろうと警告している。
最も痛手を被るのは?
確かにこれまで、中国が台湾について発する壮大な脅し文句は現実にはなってこなかった。だが、米中関係が極めて悪化している今は、事態のエスカレートが手に負えなくなる危険性は否定できない。
その一方、今回のペロシの訪台をめぐる騒動は、バイデン政権の中国および台湾に対する政策が混乱している印象を一段と強くした。なにしろ大統領と下院議長、そして軍の態度が一致していない。
バイデン自身の言動も、政策が混乱しているイメージに寄与している。バイデンはここ数カ月に3度も、もし台湾が中国の軍事的な攻撃を受けた場合、アメリカは台湾を防衛すると明言して、側近が火消しに追われてきた。疑問はほかにもある。
これまで多くの問題で密接に協力してきたバイデンとペロシが、なぜ台湾訪問に関してはこれほど足並みが乱れているのか。なぜ国防総省は、台湾訪問のリスクを事前にではなく、FT紙による報道後に初めてペロシに説明したのか。
さらに、このタイミングは戦略的な判断というより、米議会の夏休みに合わせただけのように見える。
だが、中国にとって、今は5年に1度の中国共産党大会前の非常にデリケートな時期だ。この大会で、習近平(シー・チンピン)国家主席は党総書記として異例の3期目の就任を果たし、一段と強力な支配体制を築こうとしている。