ミャンマーで日本人ジャーナリスト拘束 民主派デモを取材中に
最近の現地情勢の確認不足が原因?
ヤンゴン在住の関係者によると「久保田さんは最近のミャンマーの情勢を正確に把握しておらず油断した可能性がある」と指摘する。
クーデター直後は民主派のデモや集会がヤンゴンを始め全土で展開され、治安当局も極端な鎮圧や暴力を行使せず、その模様は内外の報道陣を通じて国際社会に広く伝えられた。
しかし2021年後半から治安当局による弾圧が強化され、大規模な集会はほとんど開かれず、デモも「フラッシュモブ」という小規模・短時間のゲリラ的デモに様変わりし、ネットに上げられるデモのニュースも参加者が当局に特定されないように顔にモザイクが駆けられるように変化した。
久保田さんが拘束された30日の南ダゴン郡区でのデモも小規模なものだったとされ、デモ隊のごく近くで撮影中だったため余計にデモ隊を撮影する久保田さんが目立ったのではないかとみられている。
関係者は「最近ミャンマーに入国して来たのではないか。そのため最近のデモ取材の危険性をよく理解していなかった可能性がある」と指摘する。
現在ヤンゴンなどに滞在するジャーナリストは大半が地下に潜伏しており、デモなどの取材を含めて不用意な外出は一切せずに息を潜めて当局の監視や当局のスパイの目を避けているという。
ミャンマーでは2021年4月18日にフリージャーナリストの北角祐樹氏がやはりヤンゴン市内での民主派デモを取材中に当局に「虚偽のニュースを流した」との容疑で身柄を拘束されている。北角氏は日本側の釈放要求もある中その後5月14日に釈放され、無事日本に帰国している。
北角氏が拘束された当時と現在のミャンマー情勢は大きく異なり、治安当局による民主派市民への弾圧は苛烈となっている。
各地で民主派組織がクーデター後に組織した「国民統一政府(NUG)」メンバーや参加の武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」参加者への軍の攻撃や殺害、そのほかにも無抵抗、非武装、無実の一般市民への殺害を含む残虐行為、人権侵害が頻発している。
そんななか、7月23日には軍政はヤンゴンのインセイン刑務所に収監中だった死刑判決が確定していた民主派政治犯4人に対し1976年以来初となる死刑執行に踏み切り、民主派やミャンマーもメンバーである東南アジア諸国連合(ASEAN)、欧米、国連からも厳しい批判を浴びている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など