最新記事

中国政府

独裁政権のパワーバランスを完全に理解した、中国農村デモ「勝利の方程式」

More Accountability Now?

2022年7月20日(水)17時15分
ジ ェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)

農村向け銀行は地元当局の汚職のツールにもなり得る。さらに、地方政府の歳入は先細りしている。補償の担い手は明確でなく、政府内で対立を招く可能性が高い。

今回の抗議活動の原因は不透明な補償プロセスだ。中国は2015年に預金保険制度を導入したが、これまで発動した例はない。

その一方、中国政府はいくつかの金融機関を救済している。モラルハザードよりも不安定化を懸念する政府は、いざというときには公的救済措置を取ると、中国の投資家は信じて疑わない。

上海交通大学上海高級金融学院の朱寧(チュー・ニン)教授いわく、これは「保証付きバブル」のパターンだ。不動産を含めて、通常経済では補償されないはずの金融活動はどれも、政府が補償してくれるという暗黙の了解が中国にはある。市場が下落傾向になると、街頭では抗議活動が始まる。

今回の事件では、被害口座が預金保険制度の対象になるのか不明なままだ。少なくとも一部は普通預金ではなく、制度の対象外である高金利の資産運用商品だった。預金者本人が、この事実を知らされていたかも明らかではない。

銀行側はオンライン融資と結び付いた高リスクのスキームを用い、補償責任の範囲外で預金を集めていたとみられる。預金件数の多くは、バランスシートに記載されることもなかったようだ。

中国のオンライン融資では、詐欺や不正会計が珍しくない。18年には、ピア・トゥ・ピア(個人同士)の融資システムなどをめぐって事件が相次ぎ、厳しい取り締まりが行われた。破綻企業の顧客は政府の補償を期待して抗議活動を行い、限定的ながら成果を得た。

許容範囲の「線引き」は突然変わる

資産運用商品は多くの場合、特に金融知識が乏しい層(または、最終的に政府がリスクを負担してくれると信じる人々)向けに、通常の銀行口座や有力機関のお墨付き商品であるかのように装って販売される。銀行が資金流出を防ぐために店舗を閉鎖したり、オンラインサービスの一部を停止し、顧客が口座にアクセスできなくなることもある。

中国の金融部門が不動産危機とゼロコロナ政策による経済減速に見舞われるなか、抗議活動は増えるだろう。だがそれは、あくまでも一定の枠内での行動を意味する。「独裁的体制とよりよい取引をするため、賢い抗議者は公式に承認されたやり方で不満を表現する」と、中国専門家のエリザベス・ペリーは指摘する。

今回、抗議者は中央政府に権力を行使するよう求めた。中央政府そのものに疑問を呈していたら、より過酷に弾圧されただろう。

もちろん、言動の許容基準は突然変化することもある。18年、オンライン詐欺の被害者が補償を求め、メッセンジャーアプリの微信(ウェイシン)を使って北京でデモを計画したが、開始前に解散させられた。北京が首都であることと、グループチャットが統制対象であることが作用した。

越えてはいけない一線を見極めるのは難しい。

From Foreign Policy Magazine

202412310107issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年12月31日/2025年1月7日号(12月24日発売)は「ISSUES 2025」特集。トランプ2.0/AI/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済…[PLUS]WHO’S NEXT――2025年の世界を読む

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

伊、オープンAIに罰金 チャットGPTがデータ保護

ビジネス

ホンダと日産、経営統合視野に協議入り 三菱自も出席

ワールド

ウクライナのNATO加盟、同盟国説得が必須=ゼレン

ワールド

インド中銀がインフレ警戒、物価高騰で需要減退と分析
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能…
  • 5
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 6
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 7
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 8
    「オメガ3脂肪酸」と「葉物野菜」で腸内環境を改善..…
  • 9
    「スニーカー時代」にハイヒールを擁護するのは「オ…
  • 10
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 5
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 8
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 9
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中