独裁政権のパワーバランスを完全に理解した、中国農村デモ「勝利の方程式」
More Accountability Now?
農村向け銀行は地元当局の汚職のツールにもなり得る。さらに、地方政府の歳入は先細りしている。補償の担い手は明確でなく、政府内で対立を招く可能性が高い。
今回の抗議活動の原因は不透明な補償プロセスだ。中国は2015年に預金保険制度を導入したが、これまで発動した例はない。
その一方、中国政府はいくつかの金融機関を救済している。モラルハザードよりも不安定化を懸念する政府は、いざというときには公的救済措置を取ると、中国の投資家は信じて疑わない。
上海交通大学上海高級金融学院の朱寧(チュー・ニン)教授いわく、これは「保証付きバブル」のパターンだ。不動産を含めて、通常経済では補償されないはずの金融活動はどれも、政府が補償してくれるという暗黙の了解が中国にはある。市場が下落傾向になると、街頭では抗議活動が始まる。
今回の事件では、被害口座が預金保険制度の対象になるのか不明なままだ。少なくとも一部は普通預金ではなく、制度の対象外である高金利の資産運用商品だった。預金者本人が、この事実を知らされていたかも明らかではない。
銀行側はオンライン融資と結び付いた高リスクのスキームを用い、補償責任の範囲外で預金を集めていたとみられる。預金件数の多くは、バランスシートに記載されることもなかったようだ。
中国のオンライン融資では、詐欺や不正会計が珍しくない。18年には、ピア・トゥ・ピア(個人同士)の融資システムなどをめぐって事件が相次ぎ、厳しい取り締まりが行われた。破綻企業の顧客は政府の補償を期待して抗議活動を行い、限定的ながら成果を得た。
許容範囲の「線引き」は突然変わる
資産運用商品は多くの場合、特に金融知識が乏しい層(または、最終的に政府がリスクを負担してくれると信じる人々)向けに、通常の銀行口座や有力機関のお墨付き商品であるかのように装って販売される。銀行が資金流出を防ぐために店舗を閉鎖したり、オンラインサービスの一部を停止し、顧客が口座にアクセスできなくなることもある。
中国の金融部門が不動産危機とゼロコロナ政策による経済減速に見舞われるなか、抗議活動は増えるだろう。だがそれは、あくまでも一定の枠内での行動を意味する。「独裁的体制とよりよい取引をするため、賢い抗議者は公式に承認されたやり方で不満を表現する」と、中国専門家のエリザベス・ペリーは指摘する。
今回、抗議者は中央政府に権力を行使するよう求めた。中央政府そのものに疑問を呈していたら、より過酷に弾圧されただろう。
もちろん、言動の許容基準は突然変化することもある。18年、オンライン詐欺の被害者が補償を求め、メッセンジャーアプリの微信(ウェイシン)を使って北京でデモを計画したが、開始前に解散させられた。北京が首都であることと、グループチャットが統制対象であることが作用した。
越えてはいけない一線を見極めるのは難しい。
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