最新記事

中国政府

独裁政権のパワーバランスを完全に理解した、中国農村デモ「勝利の方程式」

More Accountability Now?

2022年7月20日(水)17時15分
ジ ェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)
中国・鄭州デモ

抗議のための集団行動には、明確な戦略と目標がある(中国人民銀行の鄭州支店前で座り込みを行う市民) REUTERS

<中国・河南省の農村向け銀行で、預金が一方的に凍結される騒ぎが発生。ただし抗議者は計算ずくの行動と主張で、中央政府を刺激せず目的の一部を達成した>

実りのない結果に見えた。河南省の省都・鄭州で7月10日、市民約3000人による大規模な抗議活動が発生。私服組と制服組が交じる警官隊と衝突した末に、制圧された──。しかし、参加者は少なくとも目的の一部を達成した。

市民が抗議の座り込みを行ったのは、中央銀行・中国人民銀行の鄭州支店前だ。河南省の農村向け銀行4行、および近隣の安徽省の銀行1行で今年4月から、計数十万件の口座の預金が引き出せなくなっているスキャンダルをめぐって、捜査と補償を訴えた。

中国のソーシャルメディアでは、警察の暴力を捉えた動画が拡散し、抗議活動を支持する声が上がった。「マフィア! マフィア!」と叫ぶ抗議者の非難の対象は、問題の銀行だけではない。複数の地元当局者が共謀して預金を奪ったと、彼らは主張している。

鄭州では6月、抗議を計画する預金者の移動を制限しようと、新型コロナウイルス対策の一環として中国でダウンロードが義務付けられている「健康コード」アプリを、地元政府幹部らが不正操作した事件も発覚。一般市民の憤慨や国営メディアによる批判を招き、幹部らは処分された。

今回のような抗議活動は中国では一般的かつ明確な目的がある。単なる怒りの表明ではなく、当座の目標達成を追求する意識的なロビー活動だ。

この手の集団行動を効果的に行うカギは、不安定化を恐れる中国共産党と、トラブルの表面化(そうなれば、上層部に調査されることになりかねない)を嫌う地元当局の双方の立場に付け入ること。抗議活動の発生件数は業績評価の指標の1つでもあるため、当局者は未然に防ぎたがる。

こうした集団行動戦略は、要求内容が鉱山労働者への未払い賃金の支給であれ、固定資産税の引き下げであれ、一定の成功を収めることが多い。それは抗議活動への対応として、アメとムチの兼用が常套手段だからだ。圧倒的な治安機構を背景とする強大な力でデモを鎮圧した後、通常はカネを提供することで、問題の少なくとも一部を解決する。

地方の金融機関で同様の問題が続く見通し

定石どおり、鄭州での座り込みの翌日、河南省当局は預金額5万人民元未満の顧客を対象に、補償計画を公告した。預金額5万元以上の顧客には追って補償を行うという。問題の銀行を乗っ取ったという「犯罪組織」関係者の逮捕も発表された。

同様の問題は、近い将来に再び起こりそうだ。中国ではこの10年間、地方部住民への融資サービスの拡大を図り、政府が農村向け銀行の奨励策を実施。その数は今や、およそ4000行に上る。

だが、多くの農村向け銀行は資本不足で不良債権に悩まされ、合併を求める声にさらされている。中国のほぼ全ての金融機関と同じく、建設・不動産市場に過剰投資してきたが、これらの市場は国内各地で急速に収縮している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア中銀、金利21%に据え置き 貿易摩擦によるイ

ワールド

ルビオ氏、米国務省の欧州担当トップに元側近起用 欧

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、低下続く 4月確報値52

ビジネス

金融市場、関税政策に適応=トランプ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中