最新記事

歴史

ウクライナ戦争に「酷似した戦争」が20世紀にあった...その「結末」から分かること

The Korean War Redux

2022年7月6日(水)18時53分
ヨー・インゲ・ベッケボルド(ノルウェー防衛研究所・中国担当上級フェロー)

第4に、ウクライナ戦争はNATOおよび環大西洋コミュニティーの一体感を新たにした。ここ数年は欧米の溝の深まりが懸念されていたが、風向きは逆転した。アメリカはヨーロッパで軍事的プレゼンスを高め、ヨーロッパのNATO加盟国は国防費を増強している。歴代の米大統領が求めてきた同盟内の負担のバランスに、ヨーロッパがようやく応えつつある。

米中対立の新時代は多くの点で冷戦時代に似ているが、独自の特徴もある。米ソの対立は冷戦時代の初期、危険なほど不安定だった。

朝鮮戦争はアメリカの戦略に3つの影響を与えた。まず、かつては周辺と見なされていた地域が戦略上重要な関心事となり、ユーラシア大陸全域でソ連圏を封じ込める防衛線戦略が導入された。

そして、アメリカはさらなる代理戦争に備え、同盟国と緊密に連携しながら通常戦力と核戦力を増強し、ソ連との軍拡競争に邁進した。最終的に冷戦の主戦場はヨーロッパの陸上に移り、大量報復戦略(核戦力を中心とする圧倒的な戦力で即時かつ大量の報復をする戦略)が生まれ、ヨーロッパ大陸を分断している固定線を越えようとする試みに対して強い抑止力になった。

二極化はさほど進まないが安定もしない

これらの戦略の結果、朝鮮戦争後の冷戦時代は二極化が進んだものの、比較的静的で安定していた。

現在顕在化している米中対立は、高度な相互関係を考えれば、そこまで二極化しないだろうが、そこまで安定するわけでもないだろう。

1970年代にリチャード・ニクソン米大統領(当時)は、中国との関係改善でソ連を牽制するという「チャイナ・カード」を切った。以来、中国はアメリカ主導の自由主義的な国際秩序の中で台頭してきた。現在、中国は欧米と経済的な相互依存関係にあり、二極化がそこまで進むことはなさそうだ。

冷戦時代は、大陸勢力であるソ連と海洋勢力であるアメリカの対立という図式が明確だったことが、二極化を進めた。一方、現在の中国は大陸と海洋の両方の力を持ち、貿易と接続性に有利な立場だ。

さらに、中国の地理的特性が、世界の地政学的な分断を弱める。ユーラシア大陸の中心に位置するソ連は、ヨーロッパから極東まで、ユーラシアのリムランド(大陸勢力と海洋勢力が接触する地帯)全体にとって脅威になった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米教育省、職員の半数を一時帰休に トランプ大統領の

ワールド

米国抜きで軍幹部会合、西側諸国 ウクライナ停戦後の

ワールド

再送-トランプ氏の長男がセルビア訪問、ブチッチ大統

ビジネス

25年春闘、三菱電は1万5000円で回答 組合要求
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「腸の不調」の原因とは?
  • 4
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 5
    スイスで「駅弁」が完売! 欧州で日常になった日本食、…
  • 6
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 7
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 8
    トランプ=マスク独裁は許さない── 米政界左派の重鎮…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    企業も働き手も幸せに...「期待以上のマッチング」を…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 4
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 5
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 6
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中