最新記事

日本社会

コロナ困窮者に追い打ちの物価高 「分配」訴える参院選に届かぬ声

2022年7月6日(水)11時13分
都内のNPOが生活困窮者に配布した弁当

都内のNPOが生活困窮者に配布した弁当。6月25日、東京で撮影(2022年 ロイター/Kaori Kaneko)

東京の最高気温が8日連続で35度を超え、2015年の過去最長記録と並んだ7月2日、新宿区の都庁前には食料を求める長い列ができていた。都内各地を参議院選挙の候補者が遊説して回る中、少し前まで航空会社の客室乗務員だった44歳のなおさん(本人の申し出により名字は掲載せず)は、帽子のつばをくるりと上げ、カーキ色のパンツと涼しげなサンダル姿で列に並んでいた。

「最初は食料配布に自分が行ってもいいのか躊躇(ちゅうちょ)した」。そう話す彼女は東北地方から上京して大学を出ると、日本の大手航空会社に就職した。外資系の同業他社に転職して海外で暮らしていたが、新型コロナウイルスの世界的流行で旅客需要が減って職を失った。

派遣などで働く今の月収は約10万円と、かつてのおよそ3分の1。東京の下町にある築40年、月6万円の賃貸物件に住んでいる。世界的なエネルギー価格の上昇で値上がりした電気代を節約するため、エアコンの効いた百貨店やオフィス街へ行き、「優雅なふりをして涼んでいる」と話す。100万円近くしたカルティエの時計、ブルガリのアクセサリー、あらゆるものを売り払った。

長引くコロナ禍は観光や飲食などサービス業を中心に仕事や収入を奪った。足元で感染拡大がいったん落ち着き、長いトンネルの出口にようやく差し掛かったタイミングで食料品や電気代などが値上がり、コロナで生活が苦しくなった人たちを直撃している。

7月10日投開票の参院選は、ウクライナ情勢を背景とした安全保障やエネルギー政策とともに「分配」が争点の1つになっている。岸田文雄首相が党総裁として率いる自民党は「成長」と「分配」を掲げ、野党第1党の座を争う立憲民主党も「格差是正」や「分配」を訴える。

しかし、食料配布の列に並ぶなおさんに主張は届かない。「分配政策になっていない。テレビさえない。情報を知っている人とそうでない人で差が出る」と話す彼女は、投票に行かないつもりだ。「海外から日本は貧困になったとみられている。防衛費を増やすなら、みんなが働ける仕組みや環境を作って欲しい」と、なおさんは語る。

物価高、3%の消費増税に相当

政府はコロナで収入を減らした人のために、無利子で小口資金を貸し付ける特例貸付制度の申請期限を今年8月末まで延長した。また、住民税非課税世帯への臨時特別給付金も実施している。厚生労働省の毎月勤労統計によると、2021年度の実質賃金指数は100.6と前年から0.5%増。5年ぶりにプラスに転じたが、コロナ前の2019年度の水準には戻っていない。

総務省が発表する失業率は、コロナ拡大直後も今年5月も2.6%と大きく悪化はしていない。しかし、その背景の一部には、政府が失業者を増やさないよう、コロナの影響で休業しても雇用を維持する事業者には補償を支払ったことがある。第一生命経済研究所の星野卓也・主任エコノミストの試算によると、休業者数を失業者数としてカウントした場合の失業率は、コロナ拡大直後の20年4月は11.5%だった。その後、徐々に改善し今年5月は5.4%となったが、こちらもコロナ前の水準には戻っていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州市民のEU支持が過去最高の74%、安全保障強化

ビジネス

経済・物価見通し実現していけば、引き続き金利引き上

ワールド

米上院商業委、周波数オークション巡る中国の影響調査

ワールド

中国向けベネズエラ産石油輸出が停滞、米大統領令受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 8
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 9
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 10
    【クイズ】トランプ大統領の出身大学は?
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中