最新記事

ディープフェイク

ディープフェイクを悪用し、存在しない人物がリモート面接を突破している FBIが警告

2022年7月11日(月)18時30分
青葉やまと

企業の内部データを抜き取る目的で求職者を装い、内部への侵入を企てていた可能性がある...... insta_photos- iStock

<画面越しに話しているその人物は、本当に存在するのだろうか? アメリカでは、AIが演じる架空の人間が面接に現れるようになった>

リモートワークによって柔軟な働き方が可能となった一方で、身元の知れない人物を社内に迎えるリスクもあるようだ。面接官が画面越しにリモート面接をしている相手が、存在しない架空の人間だったというケースが複数報告されている。

FBIは6月28日付の公共メッセージを通じ、「リモートワーク職への応募に、ディープフェイク(ディープラーニング技術を用いて画像・動画を作成する技術)および他人の個人情報が利用されている」と警告した。悪意ある何者かが正体を隠し、不正に社内に潜り込もうとしている模様だ。

ディープフェイクが使用される目的について、FBIは現時点で断定していない。ただし、ターゲットとなった職種は、「顧客の個人情報、財務データ、社内データベース、知財情報」などにアクセス可能なものが多いようだ。そのため、企業の内部データを抜き取る目的で求職者を装い、内部への侵入を企てていた可能性がある。


「見分けることはほぼ不可能」 リアルなフェイク映像、中国・ロシアが多用

ディープフェイクとは、AIを用いて架空の画像や映像を作りあげたり、動画を別の人物に置き換えたりする手法だ。近年では仕上がりの精度が向上し、非常にリアルなものが増えている。米フォーブス誌は、「人々の顔と声を正確に模倣しており、本物と見分けることはほぼ不可能」だと指摘している。

ただ、応募者がくしゃみをするなど不意のアクションを取ったタイミングで、画像と音声に矛盾が生じることがあるという。こうしたきっかけで面接官が違和感に気づき、FBIに報告が寄せられるようになった。

FBIのサイバー部門は3月、「悪意ある人物らが今後ほぼ間違いなく、合成コンテンツをサイバー空間および対外国の活動で利用するだろう」と発表し、警戒を促していた。ディープフェイクを用いた工作は、「ロシア人、中国人、中国語話者」によるものが多く確認されているという。

他人の個人情報の乗っ取りも 身辺調査をかわすねらいか

自分自身の映像ではなくディープフェイクで合成した人物の映像で面接を受けていた理由については、2つの効果をねらったと推測される。1つ目は捜査当局による追求の回避だ。データの持ち去りが発覚した際、本名と正規の容姿を公開していた場合、当然ながら捜査の手が及びやすくなる。

2つ目は身辺調査の回避だ。FBIに寄せられた複数の被害報告によると、応募者は単に存在しない人物をねつ造するだけでなく、既存の無関係の人物になりすましているケースも多数確認されている。犯罪歴をもった人物が、身辺調査をされれば不採用となるであろうことを認識したうえで、経歴に傷のない赤の他人のプロフィールを流用して企業に接近していると考えられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア

ビジネス

アーム設計のデータセンター用CPU、年末にシェア5

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中