2030年代に世界一の経済大国になるも、「豊かな経済大国」にはなれない中国
CAN CHINA OVERTAKE THE U.S. ECONOMICALLY?
加速する対中デカップリング
90年代には中国政府の政策も高度成長に貢献した。規制緩和で民間部門が成長し、商法の整備、税制の改正、金融改革により巨大な国内市場が生まれ、競争が促された。
ポスト冷戦時代の前半20年間の外部環境は中国にとって願ってもないものだった。唯一の超大国となったアメリカは世界経済に中国を取り込む方針を採用。多国籍企業は人件費の安さと育ちつつある巨大な国内市場に目を付けて、中国に多額の投資を行った。
脅威ではなく、潜在的なパートナーと見なされた中国は、17年にドナルド・トランプが米大統領に就任し、米中関係が急激に悪化するまで、西側の市場、資本、技術に容易にアクセスできた。
そして現在。中国を取り巻く環境は見る影もないほど悪化している。中国の製造業を世界一にした経済のグローバル化は今や逆コースをたどりつつある。
工場の国外移転で労働者が失業した先進国ではポピュリズム旋風が吹き荒れ、新型コロナのパンデミックはサプライチェーンをずたずたにした。今や大半の欧米諸国は東アジア、特に中国からの工場の国内回帰を企業に働き掛けている。
米中関係の決裂が形勢を一変させたことは間違いない。トランプは18年に対中貿易戦争を開始。以後この4年ほどで米中は地政学的な敵対関係に陥り、営々と築き上げてきた経済的な結び付きを双方が断ち切ろうとするようになった。
特に米政府は経済のデカップリング(切り離し)の効果に期待している。アメリカの資本、市場、技術にアクセスできなくなれば、必然的に中国経済の伸びは鈍化するからだ。
トランプ政権は同盟国に対中デカップリングを迫ることまではしなかったが、ジョー・バイデン大統領の下ではアメリカが旗振り役となり、先進国がこぞって経済の脱中国化に舵を切り始めた。
この動きを加速させたのは、今年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻だ。欧州諸国は米中のはざまで戦略的中立の立場を保ってきたが、世界の二極化が急速に進むなかでアメリカと共に中国・ロシアと対峙するようになった。
今後、欧州企業の対中投資・貿易は大幅に減る見込みだ。EUは中国にとって2番目に重要な輸出先だから、EUとの関係悪化は中国経済に大打撃を及ぼすだろう。