2030年代に世界一の経済大国になるも、「豊かな経済大国」にはなれない中国
CAN CHINA OVERTAKE THE U.S. ECONOMICALLY?
欧米諸国が関税引き上げなど保護主義的な措置に加え、企業に働き掛けて製造拠点の脱中国化を進めれば、中国の対米輸出(21年には5050億ドル)と対EU輸出(同じく4950億ドル)は大幅に減るはずだ。
21年には中国の輸出総額は3兆3000億ドルでGDPの18.6%を占めていた。輸出頼みの現状では、欧米向けの輸出が激減すれば中国経済の成長には急ブレーキがかかることになる。
習の統制強化が成長を阻む
この40年ほどで中国の科学技術水準は目覚ましく向上したが、高度な製造技術や半導体、新素材など特定の先端技術ではいまだに西側に大幅に後れを取っている。西側との関係悪化でデカップリングが進めば、中国は欧米の進んだ技術にアクセスしにくくなり、技術の進歩にも支障を来す。
習政権は巨費を投じて野心的なイノベーション推進事業に着手している。それによりある程度の技術力向上は期待できるにしても、研究開発で西側の情報を入手できないデメリットを相殺するには不十分だ。
おまけに中国が軍事力でもアメリカに対抗するためには、今よりもはるかに防衛予算を増やさなくてはならない。21年の中国の軍事費は2930億ドル。アメリカの軍事費(8010億ドル)の約36.5%にすぎない。
軍備拡大競争の相手はアメリカだけではない。ロシアのウクライナ侵攻で地政学的なバランスが変わるなか、アメリカの同盟国も対中抑止力の強化を目指している。この動きに対抗するには、中国は今後何年も軍事費を増やし続けなければならない。
武器に金を使えば、パンを買う金は減る。中国が現在GDPの1.65%を占める軍事費をその2倍の3.3%に増やすには(アメリカの軍事費はGDPの約3.5%)、インフラ建設や教育・医療費など生産性の向上に不可欠な予算を最低でも毎年3000億ドル削る必要がある。
こうした事情を見てくると、中国の高度成長を妨げる最大の障壁はアメリカと映るかもしれないが、それは一面の真理にすぎない。中国の経済成長の最大の敵は中国政府と言っても過言ではないからだ。
ポスト毛沢東時代に中国が奇跡の成長を遂げたのは、政府が市場経済を積極的に導入したおかげだ。ところがこの10年ほど、習主席の指導下で中国の経済改革は後退の一途をたどってきた。習政権は非効率な国有企業を民営化するどころか、その特権を温存した。
それ以上に始末が悪いのは、最近になって民間企業への規制を強化し始めたことだ。この2年ほど、規制当局は民間部門、特にテクノロジー企業を狙い撃ちにして締め付けを強めてきた。