最新記事

感染症

英ロンドンでポリオウイルスが下水から検出 ひそかに感染が広がっている?

2022年6月28日(火)17時30分
松岡由希子

ロンドンの下水処理場からポリオウイルスが検出された...... Sky news-YouTube

<6月22日、ロンドンの下水処理場からポリオウイルスが検出された。ロンドン北部や東部でポリオウイルスへの感染が広がっている可能性があるとして調査が進められている>

英国健康安全保障庁(UKHSA)は2022年6月22日、「首都ロンドンのベックトン下水処理場から採取した下水試料で急性灰白髄炎(ポリオ)の病原体であるポリオウイルスが検出された」と発表した。

英国では、これまでの定期サーベイランスで、毎年1~3個のワクチン様ポリオウイルスが下水試料から検出されているが、いずれも1回限りであり、再度検出されることはなかった。英国外で経口生ポリオワクチン(OPV)を接種した人が英国に入国した際、ワクチン様ポリオウイルスが糞便中に排泄されたものとみられている。

ロンドンでポリオウイルスへの感染が広がっている可能性

一方、2022年2月から5月にかけて採取された下水試料では、遺伝的な関連のあるウイルスが複数見つかった。このことから、ロンドン北部や東部で近しい関係にある人々の間でポリオウイルスへの感染が広がり、これらの人々の糞便中にウイルスが排泄されている可能性があるとして、調査がすすめられている。

このウイルスは「2型ワクチン由来ポリオウイルス(VDPV2)」に分類され、ワクチンを完全接種していない人ではまれに麻痺などの重症になることがある。世界保健機関(WHO)によると、2020年にはアフリカ地域を中心に27カ国で計959件の症例が報告された。今回、ロンドンで検出されたこのウイルスは下水試料のみであり、現時点でポリオ麻痺症例は報告されていない。

近年、子どものワクチン接種率が低下

英国では、1984年以降、野生株ポリオウイルスに感染した症例が確認されておらず、2003年にはポリオの根絶を宣言した。しかし近年、子どものワクチン接種率が低下。ロンドンではポリオの予防を含む6種混合ワクチンの接種率が86.6%にとどまっている。

英国健康安全保障庁の疫学者ヴァネッサ・サリバ博士は「ワクチン由来ポリオウイルスはまれであり、総じて一般市民へのリスクは極めて低い」とする一方で、「特にワクチン接種率が低い地域では、感染が広がるおそれもある」と指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中