最新記事

沖縄の論点

「島唄」が僕の人生を導いてくれた──宮沢和史(元THE BOOM)が語る沖縄と音楽

FOR FUTURE GENERATIONS

2022年6月25日(土)16時00分
宮沢和史(ミュージシャン)

「ダブルミーニング」に込めた思い

ところがシングルカットすると、「島唄」は予想を超えるヒットになった。沖縄のほとんどの人は「ありがとう」と言ってくれたが、ヒットの大きさに比例して沖縄の音楽界などからの批判の声も耳に入ってきた。本土の人間が三線を持つこと、琉球音階を使うこと......。当時は沖縄と本土の間には見えない壁があって、それを越えられるミュージシャンはほとんどいなかった。

「島唄」は沖縄戦の犠牲になった人たちへの鎮魂の歌だが、当時はバブルの頃で、沖縄戦をそのまま歌詞にしても耳を傾ける人はいないだろうと、表向きは男女の出会いと別れの歌にして、一行一行に全く違う意味を込めた「ダブルミーニング」にした。批判されるような、沖縄の上っ面を借りただけの歌ではないことは、歌い続けていれば理解してもらえるだろう――当時そう決意したが、沖縄の音楽界、民謡界の方々と楽しく付き合えるようになったと実感したのは、20年くらいたってから。

沖縄民謡には「工工四(くんくんしー)」という独特の楽譜集がある。これは星の数ほどある沖縄民謡を楽譜化したもので、スタンダードが採録されている。その第11巻の1曲目に「島唄」が載っているのを見たとき、沖縄民謡の片隅に「島唄」を置いてくれたことが、何よりもうれしかった。

ポーランドで歌った「島唄」

沖縄からの移民が多いブラジルをはじめ、中南米、そしてポーランド、ブルガリア、ロシアなど世界各地をライブで回った。どこの国でも「島唄」を歌うときには現地の言葉で、「日本の南の島で地上戦があって20万人が亡くなった。二度と戦争がないように歌います」と説明する。

いまウクライナから多くの人が避難しているポーランドを訪れたとき、移動の合間にアウシュビッツ収容所の博物館を見に行った。そこで知ったホロコーストの真実に、沖縄戦と同じくらいの衝撃を受けた。ポーランドの次のライブでいつものように「島唄」の説明をして歌ったら、ものすごい拍手があって、現地の人たちが自分の国の悲しみを重ねているんだなと。ロシアでもライブをやったが、みんないい人たちで......だから今、ウクライナで起きていることが信じられない。

最初の頃は、自分が「島唄」を届けに行っていると思っていた。でもそうじゃなくて、「島唄」が僕を世界のいろいろなところに連れて行ってくれていると思うようになった。ロシアやポーランドを見せて、「そこで見たものを違う形でほかの人に伝えろ」ということなのだと。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中