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沖縄の論点

私のハンストで浮かび出た日本政治の冷酷

NO BASE FOR HENOKO

2022年6月23日(木)11時25分
元山仁士郎(一橋大学大学院生)

そうした状況でも、私は岸田首相に期待をかけた。2019年2月に行われた辺野古移設の賛否を問う沖縄県民投票で7割超が反対の意思を示し、さらに軟弱地盤が見つかり、多額の税金を浪費しても完成の見通しが立たない新基地建設を、復帰50周年に当たり中止を宣言してもいいのではないか。これは首相の政治的な決断で実行できる話だ。

岸田氏は広島に縁があり、核廃絶や平和への思いがあると聞く。また10年にわたり、国民の声を小さなノートに書き込んでいるという。前任の2人の首相と違い、岸田氏なら多くの沖縄の人々の要求を聞き入れてくれるのではないか。小さなノートに、ハンストをする私の声も書いてくれるのではないか――。

しかし、そんな期待は裏切られた。

私は大学院で日本外交史の研究をしている。史料の中には手放しに喜べないまでも、当時の政治家や役人の沖縄への気概を感じる描写がある。その1つが1965年8月、那覇飛行場に降り立った佐藤栄作首相の言葉だ。

「私たち国民は沖縄90万の皆さんのことを片時たりとも忘れたことはありません。......私は沖縄の祖国復帰が実現しない限り、わが国にとって『戦後』が終わっていないことをよく承知しております」

無論、佐藤は沖縄返還交渉で「密約」を結び、現在まで解決されない基地問題の原因をつくったわけだが、こうした言葉に感銘を受けてしまうほど今の沖縄に対する日本政府の言葉や態度は冷酷なものばかりだ。

昔の政治家や役人のほうが沖縄戦や米統治下の沖縄に対する想いが強く、米政府に物を申していたのではないか。復帰50年では沖縄の基地のみならず、日本の政治や外交の在り方の問題も浮き彫りになった。

元山仁士郎(一橋大学大学院生)
沖縄県出身。SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)などで活動後、2019年に「辺野古」県民投票の会代表として投票実現に尽力

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