補欠から繰り上げ出走して優勝、気弱だった私の愛馬がなぜ栄冠をつかめたか
I Trained Rich Strike
勝利の時 リッチストライク(右下)を育てた筆者(中央)と騎手のリオン(左) JAMIE RHODES–USA TODAY SPORTS–REUTERS
<才能があっても、ここぞという時に戦うのをやめてしまうリッチー。ケンタッキーダービーで攻め続けて勝ち切った彼が、たどった道とは?>
競馬のアメリカクラシック3冠の1つであるケンタッキーダービーで、私が調教する競走馬リッチストライク(愛称リッチー)が今年優勝するなんて思いもしなかった。
可能性がゼロだったわけではない。レースには予測不能な要素がたくさんある。でも、優勝なんて夢物語だと分かっていた。現実的な目標は10位以内に入ることだった。
昨年9月、リッチーはチャーチルダウンズ競馬場で行われた未勝利馬が出場するレースで初優勝を果たし、10月のキーンランド競馬場では3着に入った。私たちは彼の能力を認識し始めた。そして全てが動きだした。
リッチーは才能はあるのだが、ここぞという時に戦うのをやめてしまう。だから最後まで攻め続け、勝ち切ることを教えなくてはならなかった。
そこでリッチーの前に数頭の馬を走らせる形で訓練を始めた。リッチーがスピードを緩めそうなあたりで、他の馬を抜けとたきつける。騎手が「行け!」と言えば、脇目も振らず走るようにする狙いだ。
これは「マイク・タイソンになれ」と言うようなものだ。タイソンは何者なのか分からない風貌だが、リングに上がると紛れもなくボクサーになり、相手を1分でノックアウトしようと攻め続ける。
この訓練を3週間ほど続けたある日、騎手が言ってきた。「このトレーニングはもう終わりにしよう。リッチーは抑えが効かない。ほかの馬を見ると、とにかく追い掛ける」