最新記事

東南アジア

こっそりカンボジアに拠点を作った中国人民解放軍に、慌てるアメリカ

A Secret Base

2022年6月16日(木)15時15分
セバスチャン・ストランジオ
リアム海軍基地

リアム海軍基地(2019年) Samrang Pring-REUTERS

<中国軍がカンボジア海軍の基地使用に関する密約を結んだと報じられるも、作戦上のメリットは少なく、単なる政府高官と政商の癒着にすぎない。それでも、なぜアメリカは焦るのか?>

秘密合意があるのか、ないのか。カンボジア南西部に位置するリアム海軍基地の拡張工事をめぐり、欧米メディアの報道が過熱している。

6月8日の着工式で、記念の鍬く わならぬシャベルを入れたのは、カンボジアのティア・バン副首相兼国防相と、中国の王文天(ワン・ウエンティエン)駐カンボジア大使だった。カンボジア政府は近隣で海水浴に興じる2人の写真も公開しており、中国との良好な関係をアピールした。

これにいきりたっているのがアメリカだ。2019年にウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)が、中国は拡張工事を支援するだけでなく、中国軍が同基地を使用する密約を結んでいると報じたのを皮切りに、同基地は中国がアジアの海を支配するための新たな足掛かりになるという報道が盛んになった。

実際、6月6日付のワシントン・ポスト紙は、中国が「自国軍専用の海軍施設をカンボジアに建設している」と報じた。そして匿名ではあるものの中国政府筋が、「基地の一部」が「中国軍」によって使われることを認めたとしている。ただしこの人物は、基地は中国軍の「専用」となるわけではなく、研究利用もされる予定だと述べたという。

カンボジア政府のパイ・シパン報道官はAP通信に対し、基地の拡張は「中国とカンボジアの協力関係」の表れだが、カンボジアは外国の軍隊の駐留を認めないと断言した。ティア・バンも着工式で、「カンボジアは自衛能力を高める」と述べるにとどまった。

作戦上の利点は少ない

カンボジア政府寄りメディアのフレッシュニュースによると、中国は基地に新しい桟橋を2つ建設しつつ、中型船が利用できる水深を確保する浚渫(しゅんせつ)工事を行う。軍服3万6900着をカンボジア海軍に提供する計画もある。

とはいえ、中国軍のものとされる施設の面積はわずか0.3平方キロ。ここに軍事的プレゼンスを築くことで中国がどれほど恩恵を得るのかは謎だ。南洋理工大学S・ラジャラトナム国際研究大学院のジョン・ブラッドフォード上級研究員は今年2月、「中国にとって作戦上の新しい利点は少ない」と指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中