こっそりカンボジアに拠点を作った中国人民解放軍に、慌てるアメリカ
A Secret Base
リアム海軍基地(2019年) Samrang Pring-REUTERS
<中国軍がカンボジア海軍の基地使用に関する密約を結んだと報じられるも、作戦上のメリットは少なく、単なる政府高官と政商の癒着にすぎない。それでも、なぜアメリカは焦るのか?>
秘密合意があるのか、ないのか。カンボジア南西部に位置するリアム海軍基地の拡張工事をめぐり、欧米メディアの報道が過熱している。
6月8日の着工式で、記念の鍬く わならぬシャベルを入れたのは、カンボジアのティア・バン副首相兼国防相と、中国の王文天(ワン・ウエンティエン)駐カンボジア大使だった。カンボジア政府は近隣で海水浴に興じる2人の写真も公開しており、中国との良好な関係をアピールした。
これにいきりたっているのがアメリカだ。2019年にウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)が、中国は拡張工事を支援するだけでなく、中国軍が同基地を使用する密約を結んでいると報じたのを皮切りに、同基地は中国がアジアの海を支配するための新たな足掛かりになるという報道が盛んになった。
実際、6月6日付のワシントン・ポスト紙は、中国が「自国軍専用の海軍施設をカンボジアに建設している」と報じた。そして匿名ではあるものの中国政府筋が、「基地の一部」が「中国軍」によって使われることを認めたとしている。ただしこの人物は、基地は中国軍の「専用」となるわけではなく、研究利用もされる予定だと述べたという。
カンボジア政府のパイ・シパン報道官はAP通信に対し、基地の拡張は「中国とカンボジアの協力関係」の表れだが、カンボジアは外国の軍隊の駐留を認めないと断言した。ティア・バンも着工式で、「カンボジアは自衛能力を高める」と述べるにとどまった。
作戦上の利点は少ない
カンボジア政府寄りメディアのフレッシュニュースによると、中国は基地に新しい桟橋を2つ建設しつつ、中型船が利用できる水深を確保する浚渫(しゅんせつ)工事を行う。軍服3万6900着をカンボジア海軍に提供する計画もある。
とはいえ、中国軍のものとされる施設の面積はわずか0.3平方キロ。ここに軍事的プレゼンスを築くことで中国がどれほど恩恵を得るのかは謎だ。南洋理工大学S・ラジャラトナム国際研究大学院のジョン・ブラッドフォード上級研究員は今年2月、「中国にとって作戦上の新しい利点は少ない」と指摘している。