最新記事

病原菌

ロシア支配マリウポリの集団墓地からコレラ流行の恐れ

Russia Risking Mariupol Cholera Outbreak With Mass Graves, Water Shortage

2022年6月7日(火)17時51分
アンドリュー・スタントン

集団墓地から遺体を掘り起こす作業員(ロシア軍による虐殺があったとされるキーウ郊外のブチャで) Volodymyr Petrov-REUTERS

<ロシア軍との交戦中に集団墓地に埋められた大量の遺体が、インフラが損壊した水源を汚染。すでに数例のコレラが報告されている>

ロシア軍に制圧されたウクライナの都市マリウポリで、埋葬された大量の遺体がコレラのアウトブレイク(感染爆発)を引き起こす可能性があると、地元当局が警告した。

ウクライナ保健省で公衆衛生を統括する医師イーホル・クジンは6月6日の記者会見で、感染すれば死に至る危険がある細菌性疾患、コレラの感染拡大を警告した。市街地周辺での戦闘によって命を落とした人たちの遺体の多くがまとめて埋葬されていることや、上下水道インフラが破壊されたことが、感染拡大の要因になりうるという。「ザ・ニュー・ボイス・オブ・ウクライナ」のニュース・ウェブサイト「NV.UA」が伝えた。

ロシアが主要な港湾都市マリウポリを制圧してから数週間。ウクライナ側の防衛隊は、マリウポリを死守しようと2カ月以上にわたって戦闘を繰り広げたが、最終的にはロシア軍が5月末にこの街を掌握した。戦闘中、地元当局は市内での人道的危機について繰り返し警告を発していた。

危険な飲み水

クジンによると、戦闘で死亡した一部の遺体は、正式な墓地ではない場所に埋葬されており、これが水源の汚染を招いているという。こうした事例が正確にどのくらいあるのか、その数は公表されていない。

ザ・ニュー・ボイス・オブ・ウクライナの報道によると、クジンは住民に対し、コレラの感染拡大を防ぐために、井戸水か水道水を必ず煮沸して用いるようにと呼びかけている。「コレラ流行のリスクはと問われれば、『現実に存在する』ということになる」とクジンは語った。「コレラの感染例が複数、この地域で報告されている。コレラ菌がこれ以上広がらないよう集中して取り組んでいるところだ」

マリウポリ市長の顧問ペトロ・アンドリュシチェンコも6月6日、SNSのテレグラフへの投稿で、同市が感染症のアウトブレイクに備えていると述べた。今のところは個別の症例について報告を受けているにすぎないが、感染拡大は「すでに始まっている」と警告した。

WHO(世界保健機関)も、戦闘中にマリウポリの上下水道が損傷を受け、多くの水道管や下水管が破壊されたことに触れつつ、同市で感染症が拡大する危険性を指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中