最新記事

軍事

日本の次期戦闘機(仮称F3)の開発パートナーが、米国から英国に変更された理由──新「日英同盟」の時代

2022年6月30日(木)17時10分
秋元千明(英国王立防衛安全保障研究所〔RUSI〕日本特別代表)

akimoto20220630fighter-2.jpg

英国の次期戦闘機「テンペスト」の概念模型(英国防省発表)

防衛省筋によると、米国の次世代戦闘機開発と日本の次期戦闘機開発のタイミングが合わず、スケジュール感が大きく異なっていたことや、米国側は次世代の戦闘機を無人機にすることを考えているのに対して、日本側は既存の技術を発展させた有人機をめざしており、日米の間で戦闘機の未来像に隔たりがあったことが、米国が退いた理由として大きいという。

さらに、米国側が開発にあたって主要な装備を米国製にすることを求めたため、それでは日本の航空技術の育成につながらないという日本側の懸念があったという。

これに対して、英国は「テンペスト」という次期戦闘機の開発計画をイタリア、スウェーデンと共同で進めており、その完成の時期も日本と同じ2035年であることから、スケジュール感を共有できるという利点があった。

また、英国がテンペスト計画で培った技術を日本側が取得できる可能性がある一方、逆に英国側にとっては日本の技術をテンペスト計画に転用することが期待できるなど、日英双方にとって得られる利益が大きい点も魅力的だったようだ。

さらに、英国はエンジンやレーダーも日本と共同で開発し、改修についても両国が自由にできることを提案しており、英国なら日本の対等なパートナーとしてふさわしいとする見方が防衛省や防衛産業の間で強かったようだ。

防衛省はこうして最終的に共同開発のパートナーを英国に変更する方針を決めたとみられている。

政府筋によれば、この方針は2022年5月4日、岸防衛相がワシントンで米国のオースティン国防長官と会談した際、まず米国側に伝えられ、理解を得た。そして、その翌日、英国を訪問した岸田首相がジョンソン首相との会談で日英共同開発を進めることについて話し合ったという。

ただし、米国は次期戦闘機の開発から完全に撤退したわけではなく、データリンクシステムの構築や無人機との連携システムなどについては限定的に協力することになるらしい。

一方、英国との共同開発にあたっては英国のテンペスト計画に参加しているイタリアやスウェーデンも関与する可能性があり、日本の次期戦闘機は日本と欧州諸国が開発する初めての戦闘機になりそうだ。

戦闘機には政治的側面があり、単なるシンボルでもない

一般的に言って、戦闘機には他の装備には見られない政治的側面がある。

それは戦闘機がその国の守りのシンボルであり、その国の外交を体現しているということだ。例えば、日本が戦闘機を米国と共同開発しているのは、諸外国から見れば日本が米国の同盟国であることを象徴的に示している。

また、インドがロシア製、フランス製、英国製を混合で運用しているのは、伝統的な非同盟路線を踏襲している外交姿勢をうかがわせる。サウジアラビアが米国製と欧州製の両方の戦闘機を保有しているのは、米国と欧州の中間の立ち位置にあることをアピールするためである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、北朝鮮の金総書記と「コミュニケーション

ビジネス

現代自、米ディーラーに値上げの可能性を通告 トラン

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振

ビジネス

再送-インタビュー:トランプ関税、国内企業に痛手な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中