日本の次期戦闘機(仮称F3)の開発パートナーが、米国から英国に変更された理由──新「日英同盟」の時代
さらに、スウェーデンはこれまで自国の戦闘機をすべて自主開発してきており、それは軍事的非同盟をアピールするためだった。
事実、戦闘機は単なるシンボルではなく、関係の近い国同士でないと取引はできない。なぜなら、外国製の戦闘機を導入すると、兵士たちはその国から教育や訓練を受けなくてはならないし、整備に必要な情報や部品も常に提供を受けなくてはならない。それによって互いの関係が深まる効果が生まれる。
良い例がウクライナ戦争に対するインドの対応である。世界のほとんどの国がロシア非難の国連決議に賛成しているのに、大国のインドは棄権にまわった。それはインドがロシアから防衛の要となる装備の提供を受けてきたからである。このように防衛装備の取引は外交に大きな影響を与える。
つまり、日本が英国と戦闘機を共同開発することは、日本は米国だけでなく英国とも新しい同盟関係に入ったことを表明し、日本の安全保障外交が従来の米国一辺倒のものから変わりつつあるというメッセージを国の内外に発信することになるのである。
英国は「Allies(同盟国)」と日本は認識すべし
日英の安全保障協力は2012年、英国のデービッド・キャメロン首相(当時)と日本の野田佳彦首相(当時)が日英間の防衛協力を進めることで合意したことから始まった。2017年にはテリーザ・メイ首相(当時)と安倍晋三首相(当時)が日英安全保障共同宣言を発表し、拍車がかかった。そして、ついに主力装備である戦闘機の共同開発に取り組む関係にまで発展したのである。
この間、日英間では2016年、英空軍が初めて日本に飛来し、航空自衛隊と共同訓練を実施したほか、陸上自衛隊と英陸軍も共同演習を実施してきた。海上自衛隊と英海軍にいたっては、ソマリア沖の海賊対処という実際の作戦で行動を共にしてきた。その集大成が昨年の空母クイーン・エリザベスの来訪であった。
一方、外交面では、日英は2013年、軍事情報の交換と秘密の保護を定めた日英情報保護協定を締結したほか、2017年、自衛隊と英軍との間で物品や役務を相互に提供し合うことを可能にする物品役務相互提供協定(ACSA)を結んでいる。
そして、2022年5月の日英首脳会談では、自衛隊と英軍が互いの国を訪問した際、それぞれの法的地位を定めた円滑化協定(RAA)に大枠で合意した。
このように、日本の次期戦闘機が日英共同開発で進められるのは、日本と英国が過去、時間をかけて着々と外交と軍事の両面で関係を深めてきたことの結果であると言える。
英国との関係を日本では「パートナーより上の段階」とか「準同盟国」などとあいまいな呼び方しかしないが、英国では日本のことをAllies(同盟国)であるとか、New Type of Alliance(新しい形の同盟)とはっきり呼ぶことが一般的だ。
同盟の定義には諸説あるが、英国は日本にとってすでに立派な同盟国であると認識しなければならない。なぜなら、国の守りのシンボルとも言える戦闘機を共同で開発するなど、同盟関係になければ絶対にしないことだからである。
『復活!日英同盟――インド太平洋時代の幕開け』
秋元千明 著
CCCメディアハウス
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[筆者]
秋元千明(あきもと・ちあき)
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)日本特別代表。
早稲田大学卒業後、NHK 入局。30 年以上にわたり、軍事・安全保障専門の国際記者、解説委員を務める。東西軍備管理問題、湾岸戦争、ユーゴスラビア紛争、北朝鮮核問題、同時多発テロ、イラク戦争など、豊富な取材経験を持つ。一方、RUSI では1992 年に客員研究員として在籍した後、2009 年、日本人として初めてアソシエイト・フェローに指名された。2012 年、RUSI Japan の設立に伴い、NHKを退職、所長に就任。2019年、RUSI日本特別代表に就任。日英の安全保障コミュニティーに幅広い人脈があり、両国の専門家に交流の場を提供している。大阪大学大学院招聘教授、拓殖大学大学院非常勤講師を兼任する。著書に『戦略の地政学』(ウェッジ)、『復活!日英同盟――インド太平洋時代の幕開け』(CCCメディアハウス)等。