「扇風機もない職場はかまど」 インドの工場労働者を40度超えの熱波が直撃
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インドの工業都市、アーメダバード近郊にある生地プリント工場。ナジェンドラ・ヤダブさん(32歳)は長年、この息苦しい職場でシャツも着ずに働き続けてきたが、この夏の熱波はさすがにお手上げだ。写真は5月、熱波で陽炎が立つ路面。アーメダバード近郊で撮影(2022年 ロイター/Amit Dave)
インドの工業都市、アーメダバード近郊にある生地プリント工場。ナジェンドラ・ヤダブさん(32歳)は長年、この息苦しい職場でシャツも着ずに働き続けてきたが、この夏の熱波はさすがにお手上げだ。
5月には気温が40度を超える日々が2週間以上も続き、その後も猛暑はほとんど収まっていない。扇風機もエアコンもない職場は「かまど」と化したと、ヤダブさんはトムソン・ロイター財団の電話取材で語った。
「私たちの忍耐は日々試されている」とヤダブさん。「工場オーナーの執務室にはエアコンがあるのに、私たちが働いている工場のフロアには扇風機さえない。シフトは12時間。中には病気になったり休んだり、給与を失ったりする者もいるが、結局、ここに戻ってくる。他に選択肢がないから」と話す。
インドではこの夏、多くの都市の平均気温が100年近く前に記録した過去最高記録を塗り替え、地元当局は何度も熱波警報を発している。
産業革命前に比べて世界の平均気温が摂氏1.2度ほど高くなった今、南アジアをこうした熱波が襲う確率は30倍に上がったと科学者らは分析している。
国連の支援を受ける組織「サステナブル・エナジー・フォー・オール(SEforALL)」は先月公表した報告書で、インドでは3億2300万人が極度の熱波と冷房設備の不足によって、高いリスクにさらされていると指摘した。
数百万人に上るヤダブさんのような労働者は、息苦しい小屋のようなところで操業する零細メーカーや、ろくな換気設備も扇風機もウォータークーラーも無い古いビルで汗を流している。
労働組合によると、コロナ禍で経済が打撃を被ったため、メーカーは暑さ対策に投資する余裕がさらになくなる一方、労働者はノルマ達成のために勤務時間が長くなり、熱波により健康リスクが高まって休職に追い込まれる者も多数いる。
しかも、気温の上昇によって工業都市で停電が多発するようになった。グジャラート州にある中央工業労働組合(CITU)のアルン・メータ総書記は「工場で製造がストップして勤務時間が減ると、給与もカットされる。疲労、病気、無休、絶望がまん延している」と嘆いた。
対策を求める声
全国災害管理局(NDMA)は、インド28州のうち23州と約100の都市・地区を「極端な高温のリスク」がある場所に分類した。
19州は既に独自の熱波対策プランを策定し、他の州もこれに追随しようとしている。NDMAは飲料水の備え付けや勤務時間の変更といった指針を発行した。
しかし、労組や活動家は、指針は当たり前の内容であり、工場に労働環境の検査が入らないことが問題だと批判する。