ウクライナ種子銀行がもつ2000種の穀物遺伝子が危機に 世界の食糧確保にも影響
ウクライナの戦場に近い国立シードバンク(種子銀行)の地下貯蔵庫で、約2000種に及ぶ穀物の遺伝子コードが絶滅の危機に瀕している。同国のZhovtneve村付近で2016年7月撮影(2022年 ロイター/Valentyn Ogirenko)
ウクライナの戦場に近い国立シードバンク(種子銀行)の地下貯蔵庫で、約2000種に及ぶ穀物の遺伝子コードが永久に損なわれる危機に瀕している。
その危険性が注目されたのは今月、近くの研究施設の損傷がきっかけだった。シードバンクと研究施設は、ともにロシア軍の集中爆撃にさらされるウクライナ北東部の都市ハリコフにある。
損傷を報告した国連食糧農業機関(FAO)設立の非営利組織、クロップ・トラスト(在ドイツ)は、攻撃されたのは研究施設だけだとし、安全保障上の理由から詳細な説明は避けた。ロイターは損傷の原因を特定できなかった。
ウクライナのシードバンクは世界10位の規模だが、貯蔵されている種子のうち、遺伝子コードがバックアップされているのはわずか4%。危機一髪の状態だ。
クロップ・トラストの執行ディレクター、ステファン・シュミッツ氏はロイターに対し「シードバンクは人類にとって生命保険のようなもの。干ばつや新たな害虫、新たな病気、気温の上昇などに耐えられる新しい植物種を育てるための原材料になる」と説明。「ウクライナのシードバンクが破壊されたら、悲劇的な喪失になるだろう」と危機感をあらわにした。
シードバンクの責任者には連絡が取れなかった。ウクライナの科学アカデミーはコメントを控え、ロシア国防省からは今のところコメント要請への回答がない。
研究者らはシードバンクに貯蔵されている遺伝子物質を頼りに、気候変動や病気への耐性を持つ植物を育てている。世界中が異常気象に見舞われる今、地球人口79億人に行き渡る食品を毎シーズン確保する上で、シードバンクは不可欠の役割を果たすようになっている。
シリアの種子を救った北極圏貯蔵庫
先のシリア内戦では、ノルウェーにある世界最大のシードバンク「スバルバル世界種子貯蔵庫」における種子保存の重要性が痛感されることになった。ここは世界で最も重要な種子のバックアップ・複製施設だ。
2015年、シリアの都市アレッポ近郊にあるシードバンクが破壊されると、スバルバルはレバノンの研究者らに向け、乾燥地帯に適した小麦や大麦、草の種子サンプルを送った。
スバルバルは北極圏の山腹にある貯蔵庫に100万種類を超える種子サンプルを保管している。この中にウクライナの種子15万種の4%、数にして1800種余りが含まれる。