最新記事

航空機

イタリア機、パイロット同時居眠りで通信途絶 テロ警戒で戦闘機2機待機のパニックに

2022年6月13日(月)15時30分
青葉やまと

ITAエアウェイズのフライトで、機長・副操縦士の両名が同時に居眠りしてテロ警戒の事態に...... (写真はイメージ) wikimedia

<10分間の居眠りが、テロ疑惑の騒動を招いてしまった>

イタリア国営の航空企業「ITA」が運行するニューヨーク発ローマ行きのフライトで、機長・副操縦士の両名が同時に居眠りをするインシデントが発生した。フランス上空を飛行中、管制官の呼びかけに対して同機が沈黙を保ったことで、ハイジャック犯の制圧下にある疑いが浮上。テロ警戒態勢が敷かれる事態に発展した。

無線に応答しなかった時間はわずか10分前後だが、フランスの航空当局は機内の状況を目視で確認する必要があると判断。機内の状況を確認するため、一時、戦闘機2機の発進準備を進めた。

当該機はオートパイロットで飛行していたため、針路と高度は正常に維持されており、乗員・乗客の安全に影響はなかった。騒動にもかかわらず、ローマ・フィウミチーノ空港に20分早着する順調なフライトとなった。

しかし、騒動を受け、パイロットのうち1名に解雇処分が言い渡されている。事件は現地時間5月1日早朝に発生し、詳細が明らかになったことで海外各紙が5月31日ごろから取り上げるようになった。

戦闘機が緊急発進を準備

イタリア紙による報道をもとに、米インサイダー誌が詳細な経緯を報じている。同誌よるとフランス当局は、戦闘機2機に対し、緊急発進の準備を指示した。

当該のAZ609便は4月30日にニューヨークを発ち、ローマへの飛行中、フランス上空に差し掛かった。この際に10分間にわたり同機が無線に応答しなかったことで、コックピットがテロリストに制圧されているのではないかとの疑念が生じたという。

フランス側の管制官がこの懸念をイタリア側管制室に伝えると、イタリア当局は航空無線に加え、衛星通信でも同機パイロットらと連絡を取ろうと試みた。これにも応答がなかったことから、フランス側は目視によってコックピット内の様子を確認する必要があると判断し、戦闘機2機の待機を命じた。

同機はオートパイロットが設定されており、飛行に支障はなかった模様だ。英インディペンデント紙はフライトデータを確認し、同機の飛行ルートおよび高度に異常は生じなかったと報じている。

コックピットでの仮眠は認められている

ITA社は同社パイロットに対し、飛行中の睡眠を認めている。これは疲労リスク管理の一環であり、同社の就業規則で「コントロールド・レスト(管理下の休憩)」と呼ばれるものだ。操縦席に着座した状態で、仮眠を含む10〜40分の休憩をとることが許可されている。

この制度は、予期せぬ疲労感や眠気に襲われた場合、無理に業務を続行するよりも、コックピット内で短時間の仮眠をとったほうが安全上のリスクが低いとする考え方に基づく。ほか、欧州やオーストラリア、インドなどでは一定の条件のもと、規制当局がコントロールド・レストの実施を認めている。日本では国土交通省が検討課題と位置付けているが、導入には至っていない。

ITAではこの制度が導入されていたとはいえ、本来であればコントロールド・レストに入るパイロットがこれを宣言し、もう一人は通常よりも高い警戒意識をもって操縦に当たらなければならなかった。今回の一件についてITAは、副操縦士がコントロールド・レストを宣言したあと、機長も居眠りをしたとみている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン氏「クルスク州のウクライナ兵の命を保証」、

ビジネス

米国株式市場=急反発、割安銘柄に買い 今週は関税政

ビジネス

NY外為市場=ユーロ上昇、ドイツ財政拡張の可能性高

ワールド

カナダ新首相就任、「米と協力」 早期議会解散との見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 8
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中