最新記事

自律航法

自律航行タンカーが世界初の太平洋1万キロ航行に成功 AIが航路を決定

2022年6月21日(火)18時50分
青葉やまと

超大型LNGタンカーが世界初の大洋横断自律航行に成功  HD Hyundai

<レベル2の自動航行に成功。2万キロ航路の後半を、AIと自動操舵システムだけで運行した>

ベンチャー企業のAvikus社は6月2日、同社の無人タンカーが大型船として世界初の大洋横断に成功したと発表した。AIによる航行システムが周囲の海域の状況や他船の位置などを認識し、最適な航路と速度を自己判断した。同社は韓国ヒュンダイ重工グループ傘下の新興企業であり、自律航法システムを専門に開発している。

自律航海に成功したのは、13万4000トンの超大型LNGタンカー「PRISM COURAGE(プリズム・カレージ)」だ。自律航法システム「HiNAS 2.0」を搭載した同船は、米テキサス州フリーポートの港を5月1日に出発。パナマ運河を抜けて太平洋を横断し、33日間かけて韓国・保寧(ポリョン)のLNG基地に到着した。全2万キロの航路のうち、航海後半の1万キロを完全自律運転で航行した。

Avikus社はこれまでに、状況の認識・判断を行うレベル1の自律航行に成功している。今回はこれに加え、船の制御までをシステムに任せるレベル2の自律航法に成功した。同社は今回の実績をもとに必要な許認可の取得を進め、自律航行システムの来年内の商用化を目指す。今回は大型LNG船での実証実験となったが、追ってレジャーボートなどにも対応する方針だ。

最適ルートで燃費7%向上

燃料高騰の折、自動運転は吉報となるかもしれない。同社によると今回の航海中、AIが最適なルートを判断したことで燃費が7%改善したほか、温暖化ガス排出量の5%抑制に成功したという。エネルギー価格が高止まりするなか、7%の燃費向上は大きなメリットとなりそうだ。

科学ニュースサイトの米『ニュー・アトラス』によると、グループ会社のヒュンダイ・グローバル・サービスが開発した人工知能「統合スマートシップ・ソリューション(ISS)」がルートと速度を決定し、これを受けて自律航法システムのHiNAS 2.0が船体を制御した。単純な最短ルートを選択したわけではなく、天候や波の高さによる影響が加味されたという。また、太平洋横断中、近隣にある他船の位置をAIが監視し続けた。海洋上のルールを遵守しながら、およそ100回におよぶ衝突回避操作をシステムが自動で行なった。

自律航行は技術的な面白さを秘めているだけでなく、国際政治にも意外な形で影響を与えそうだ。欧州は現在、ロシア情勢を念頭に、ロシア産LNGからの脱却を進めている。米フォーブス誌は、自律航法が海運のボトルネックを一定程度解消し、欧州の脱ロシアをある程度助ける可能性があると論じている。ただし、根本的にLNGの供給量が限られていることから、抜本的な改善は期待できないとも同誌は指摘している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中