ミャンマー軍政、著名な民主活動家ら死刑執行へ 1990年以来の事態に国連など非難
コー・ピョ・ゼヤ・ソー氏は2015年の総選挙でNLDから立候補し当選、スー・チー氏が進める民政への移行を扇動するなど民主化に大きく貢献した元国会議員だ。ヤンゴン市内の電車内で5人の警察官が銃撃されて死亡した事件など複数の軍政への攻撃を画策したとして訴追され、2022年1月に反テロ法違反容疑で死刑判決を受けている。
またコ・ジミー氏は1988年に当時の軍事政権に対する反軍政学生運動で活躍し一躍名前を知られる存在となった。2021年10月に自宅で逮捕されたが、軍政は同氏がSNSを通じて続けていた反軍政の情報発信が社会に不要な不安を煽っているとして逮捕したという。
相次ぐ国際社会からの執行停止要求
こうした事態に国連のグテーレス事務総長は報道官を通じて「生命、自由、安全に対する権利に対する露骨な侵害」と軍政を非難し、死刑判決の撤回を求めた。
また国際的な人権団体である「アムネスティ」や「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」なども相次いで軍政を非難し、人権尊重の立場から死刑執行の即時停止を求めている。
このような国際社会からの厳しい非難を浴びながらも軍政は死刑判決の撤回や死刑執行の中止などには一切応じない姿勢を貫いている。
ミャンマー各地では軍と武装市民組織であるPDF、少数民族武装勢力との激しい戦闘が続いている。
中部のサガイン地方域のパレ郡区付近では5月26日から31日にかけて戦車に先導された軍の約90台の車列が待ち伏せ攻撃を受けて45人の兵士が死亡したという。
待ち伏せ攻撃は地元のパレPDF、ミャインPDFそして「人民革命軍」や「ミャンマー竜兵団」などの地元少数民族武装勢力などが参加して行われたという
国内が実質的な「内戦」状態にあることを軍政は認めず「テロ組織による攻撃」として軍による無実、無抵抗、非武装の一般市民を巻き込んだ攻撃を正当化している。
ロシア軍によるウクライナ侵攻に関する報道の影に隠れて軍政の人権侵害、市民弾圧、残虐行為はますます激化、深刻化しているのが現状だ。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など